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異世界転生、王様になろう  作者: 佐藤コウキ
第1部、異世界転送
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第45話、舌戦は続く


 全くこの女は……自分さえ良ければいいのかよ。

 ……でも、それが人間というものか。俺達も同じかもしれない。

 隣のウォルターさんが大きく息を吸った。

「帝国の目的は王国だけではありません。この大陸すべてを征服する野望を持っているのです。それは帝国の態度を見ても分かること」

 ウォルターさんが反論。全く、その通りだ。

「もし、トルディア王国が攻略されたなら……次はアマンダ共和国が攻撃されるかもしれません」

 正論を言っているウォルターさん。共和国の連中は今の穏やかな状況が永遠に続くと根拠もなく信じ込んでいるのだろう。今の日本人も同様かな。平和な状況が続くと頭がボケてきて、何も行動しなくても安定した生活が得られるのだと誤解する。

「この大陸の歴史は戦争の連続でした。現在の穏やかな状態が希有なものであり、戦争をしている状態こそが通常なのです」

 王国の剣士は弁舌でも優秀だ。

 この異世界でも戦争が続いてきたのか。人間という生き物は戦争をしていないと気が済まないのだろう。

「共和国の存続を願うのなら、我が国が同盟を求めている今こそがチャンスであり、時が過ぎれば状況は不利になるばかりでしょう」

 ウォルターさんの説得は正論であり現実論だ。議員達は黙り込んでいる。

「しかしですわ、この共和国は険しい山道や高い絶壁などの天然の要害に守られています。帝国が我が国を占領できるとは思えませんわ」

 沈黙を押しのけてママゴンが言った。

「地理的な優位ばかりに頼っていては後で泣きを見ますぞ」

 突然、重松さんが野太い声を放つ。ママゴンの細いメガネがずり下がった。

「守るのも攻めるのも戦争というものは人間が行うことです。天然の要害などというハードウェアに頼っていては戦いに負けてしまう」

 重松さんが言い切った。

「私が侵略者だったら、まともに攻撃しないで共和国の内部工作を行うでしょう。賄賂をたっぷり払って内通者を雇えばいい。そうすれば高い絶壁などは意味をなさなくなる」

 部屋を振るわすような重松さんの声。迫力があるなあ。

 議員達は顔を見合わせている。もしかしたら裏切り者が出るかもしれないという不安があるのだろう。共和国も一枚岩ではないようだ。

 ウォルターさんが立ち上がる。

「共和制を信奉しているのなら、帝国の圧政に苦しんでいる民衆をどうして救おうと思わないのでしょう。自分の国の国民だけが良ければいいというのでは了見が狭いと言わざるを得ません。そして、我が国の民衆も帝国の兵隊に蹂躙されそうになっています。トルディア王国の民衆をなにとぞ救済していただきたい」

 美形の剣士は腰を曲げて頭を下げた。

 この人は本当にトルディア王国と、その国民のことを考えているんだなあ。ウォルターさんのような人こそが国王になるべきなんだろう。

 俺も後押しをしなければ。

「共和国においては兵を出してもらうだけでけっこうです。戦わなくても、帝国を牽制してもらえれば良い。相手が迎撃してきたら逃げ帰って下さい。帝国に刃向かう意思を示してもらうだけで事が済むのですよ」

 俺の言葉に腕組みをして黙り込む議長。しばらく考えてから隣の小太り議員と相談している。

「そちらの要望は分かりました。では、これから議論した上で投票によって決議したいと思います」

 議長が説明する。まったく民主主義というものは面倒な手続きが多いな。


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