第44話、舌戦
議事堂の三階にある会議室。
窓からは午前の光に照らされた町並みが見える。
大きな会議室の中央には、大きくて重そうな円形の机がドンと構えていた。
今まで見たこともない大きなテーブル。そこに俺達が座っている。
俺の右にはウォルターさんと重松さん。左には野田がいた。
テーブルを挟んで対面にはロマンスグレーのアレックス議長がいて、その両隣に共和国政府の議員達が並ぶ。
このような場所で共和国の方向が決定されるんだなあ。
「トルディア王国の要求だが、私達は受け入れることはできないという意見で一致している」
テーブルで両手を組んでいる議長が冷たく言い放つ。先制攻撃のストレートかよ。
ミッキー老人の要請なので仕方なく会議を開いてやったんだという態度がありありと浮かんでいる。
「専制国家をなんで我が共和国が助けなければならないのか。水と油が交わらないように両国が手を握ることなどあり得ない」
議長は通る声で決めつける。
「その通り!」
議長の隣で、眼鏡を掛けた小柄で太った男が同意した。眼鏡の奥では小さな目が光っている。
そいつは議長の子分のようで、議長の意向通りに動くらしい。
「国家の体制について、この際は問題ではないでしょう。今は帝国の脅威に対して、どのように対応するかというのが問題です」
敵のストレートを俺がブロックする。
人付き合いが苦手な俺でも、これくらいは言うことができるのさ。
「しかし、民衆に主権がない政治など、君主がのさばって民衆を奴隷化する制度だ。そんな野蛮な国と協調することはできない」
メガネの小男がアッパーカットを放ってきた。
「我が国王は民衆を虐げるような事は絶対にしていない!」
ウォルターさんが立ち上がって力説。
「私が敬愛するチャールズ王は善政を敷いており、民衆を慈しんでいる。それとも我が王が民衆を虐げているという証拠でもあるのですか」
珍しく興奮している剣士。俺も加勢しなければ。
「要は民衆が平和に暮らすことが重要なのであって、君主制がどうのこうのというのは内政干渉です」
メガネ野郎のアッパーカットをウォルターさんがよけて、俺がジャブを腹に入れてやった。
「共和制でも君主制でも、暮らしている人々が安心して生活できるということが重要なのでしょう。共和制だって政治の腐敗というものがあるはず」
ジャブの次はフックだ。今日の俺は冴えているな。
沈黙が流れる広い会議場。
先進的なアマンダ共和国といえども少し腐りかけているよう。だから、ミッキー老人のような資産家が会議を動かすことができる。
「しかし、攻撃されているのはトルディア王国であって我が国ではありませんわ。どうして火中の栗を拾わなければならないのでしょうか」
小太りメガネの横に座っている女が言った。
それは太った中年女で細い眼鏡を掛けている。一昔前に存在した教育ママゴンのイメージ。
「王国を助ける義理がありませんわ」
そう言って眼鏡をくいっと上げた。




