第42話、フィクサー
議長が用意してくれた宿に向かった。
それは二階建ての建物で設備も整っている。俺達はそれぞれに個室を与えられた。
「どうしたものかな」
重松さんがため息交じりにつぶやく。自衛隊のレンジャー持ちでも話し合いは苦手のよう。
広い宿屋の食堂。
俺達四人は紅茶を飲みながら曇った顔を突き合わしていた。
「どうするよ、佐藤」
野田が俺に振ってきた。
そんなことを言われても、人付き合いの苦手な俺にどうしろというのか。お前だってそうだろうが。だから、俺達は仕事を辞めて無職になっている。
俺は腕を組んで、うなるしかない。
「老人に頼みましょう」
ウォルターさんが言った。
「老人?」
野田が聞き返す。
「はい、この共和国で鉱山の採掘権をいくつか持っている老人がいるのですよ。資産家なので議会にも顔が利きます。その人に頼んでみましょう」
そう言って剣士はため息をつく。あまり気が進まないようだが。
「なんだ、そんな人がいるのなら早速、行って頼んでみようじゃないですか」
野田が席を立つ。
やはり、共和国でもマネーがものを言うのか。
「しかし、タダでは動かない人なのですよ」
「えっ」
野田の動きが止まった。
「それなりの報酬を用意しないと……。佐藤さん達の財宝を使っても良いですか」
俺と野田が顔を見合わせた。
賄賂が必要かよ。ウォルターさんも気が進まないはず。
「ええっと……いいですよ。そのために車に積んできたんですから」
返事をして俺は、いいよな、という目線を野田に送ったが、彼は黙って下を向く。
お前の考えは分かっているさ。でも、この際は仕方がないだろう。俺も後ろ髪を引かれる思いだが、このまま財宝と一緒にトンズラするわけにもいかないよ。
俺の視線によるテレパシーが伝わったのか、野田は渋々とうなずいた。
*
車は大きな門を通り、大邸宅に入った。
小学校のグランドくらいの広さがある庭に小学校の建物くらいの大きさの家。三階建ての邸宅は腐るほど鉄骨を使っているんだろうな。
玄関に前に車を停めると、中から和服のような格好をした美人が出てきた。
「いらっしゃいませ」
通る声で挨拶してきた女性。二十歳くらいだろうか。アニメに出てくるお姉さん系の暖かボイスだ。黒髪で日本人に似ているような雰囲気。チラッと盗み見ると、中肉中背だが出るところは出ている。
「ミッキー老人に会いたいのですが」
ウォルターさんが面会を申し込む。
ミッキーというのかよ。なんか可愛い名前だな。
「分かりました。どうぞこちらへ」
美人に案内されて、邸宅の中に入った。
財宝が入っている木箱は重松さんが一人で持っている。それは五十キロ以上すると思ったが、彼の足取りは軽い。
二階に上って大きなドアの前に立つ。彼女がドアをノックした。
「おじいさま。お客様がいらっしゃいました」
彼女が部屋の中に向かって言うと、中から「おお、入れ」という、しわがれた声がした。
重いドアを開けて中に入る。
部屋の中央のソファには、白髪頭のヨボヨボじいさんが座っていた。




