第41話、議長
俺は皆を起こした。
朝食のためにシートを敷いてカセットコンロでお湯を沸かす。
ウォルターさんは携帯食料をかじりながら関所の方を見ている。早く行きたいと気がはやるのか。
食べた後、車で関所に向かう。
金属の格子で作られた門に近づくと守備兵が引きつった顔で出てきた。
「私達はトルディア王国の使節団です。共和国の議長と話をしたい」
ウォルターさんが車から降りて兵に告げた。
「す、少しお待ち下さい」
槍を持った兵は動揺している。車を初めて見るので戸惑っているようだ。
やがて、責任者と思われる兵が出てきた。
「どのようなご用件ですか」
腰に手を当てて、上から目線の態度。
「私はトルディア王国の近衛兵、ウォルターです。王からの親書を預かっています。キャンベル帝国のことで最高議長とお会いしたいのですが」
相手は少し考えた後に、分かりました、と許可した。
騎馬兵に囲まれて、俺達が乗ったオフロード車は議事堂に向かう。
町並みは近代的だった。鉄骨モルタル作りのような家が建ち並ぶ。二階建てが多く、中には三階建て以上の建物もあった。
「アマンダ共和国は鉄や銅などの鉱物資源が豊富なのですよ」
ウォルターさんが説明してくれた。
金属の精錬技術が進んでいて建築物にも金属が良く使われているらしい。家を見ると、建築技術も高いような感じ。武器などを含めて金属製品は他の国に輸出していて、アマンダ共和国の経済は、その貿易によって潤っているのだという。
議事堂は三階建ての堂々とした石造りだった。
異世界で、よくこんな物を建築できたなあと感心するほどの外観。
大きな玄関の横に車を停めて中に入る。
俺達は三階の執務室に通された。
部屋の中にはロマンスグレーの髪をした中年男性が机に座っていた。
「やあ、よくいらっしゃいました。騎士ウォルターの噂は聞いていますよ」
その男性が立ち上がり、手を差し伸べてきた。日本の背広に似た服を着ている。ちょっと燕尾服に似ているかな。
「初めまして、議長。私はトルディア王国騎士、キャサリン姫専属近衛隊長のウォルターです」
そう言って議長の手を握る。
議長は、すらっとした男だった。背が高くて知的な顔つきをしている。共和国の最高議長を務めるくらいだから優秀なんだろうな。
美形の剣士と、ビシッとしたスタイルの政治家が並ぶと絵になる。
「王からの親書を持ってきています」
そう言ってウォルターさんが紙の巻物を差し出す。
「拝見しましょう」
議長は両手で受け取り、巻物をまとめていたヒモをほどく。
開いて内容を確認する。そして、すぐに口を結んで首を振った。
「これは了承できませんな」
「なぜでしょうか」
ウォルターさんの顔が曇る。
「我が神聖なる共和国と独裁政治のトルディア王国とが同盟を結ぶなど絶対にあり得ないことですよ」
議長は親書を突き返す。
「しかし、帝国の脅威から国を守るためには共闘した方が良いと思いませんか」
ウォルターさんが食い下がる。
「それは王国の問題でしょ。このアマンダ共和国とは関係ないことです」
目を細めて突っぱねてきた。ウォルターさんは黙り込む。
共和国は天然の要害に守られているので、帝国が攻めてくることなど考えていないのだろう。
俺達は引き下がるしかなかった。




