第4話、召喚儀式
(ああ、どうして私はここに居るんだろう……)
アズベルは皆に気取られないよう、小さくため息をついた。
トルディア王国の宮殿。謁見の広間の中央に立ちすくむ16歳の少女。
派手な金の刺繍が施されたローブを羽織っているが、中は裸だった。神聖な儀式では余計な衣服を身につけないことになっている。
(召喚魔法なんて使うことができるわけないのに)
自分の身長よりも高い杖をギュッと握る。背は低いがローブを着ていても胸の盛り上がりがはっきりと分かる大きさ。少し切れ長の大きな目をしている美少女。猫のように愛らしい顔だが、今は少し引きつっている。
アズベルの家系は代々、宮殿の神官を務めていた。
王国の未来を占ったり、様々な儀式に参加したりするのが主な仕事。だが、家の名前を売るために先祖の誰かが、占いの他にも召喚魔法を使えるという設定にしてしまったのだ。
(ああ、逃げ出しちゃおうかな)
チラリと上手の玉座を見る。そこには王様が鎮座していた。
「申し訳ございません、お父様。わたくしがキャンベル帝国の要求を断ったせいで……」
そう言って目を伏せたのは王座の横にたたずんでいるキャサリン姫だった。
白を基調とした豪華なドレス。黄金のペンダントを首に下げ、宝石の指輪をはめている。まるでコンピュータグラフィックのような浮世離れした美女。
「お前のせいではないよ、キャサリン」
音楽家のシューマンのような髪型の王様がなだめる。金髪のおかっぱ頭にパーマを掛けたようでトランプのキングに似ている。シワが刻み込まれた顔は威厳を持ち、謁見に来る者を威圧する。
「お前を嫁に迎えるというのは、体の良い人質にするつもりだ。それによって戦禍からまぬがれるわけではないぞ」
「でも……、このままでは体面を傷つけられたと言って帝国が侵略してくるでしょう」
「どちらにしても同じことだ。やつらはトルディア王国の貿易を奪おうとしているのだ。姫の考えは正しい。気にするでない」
王は無理に笑顔を作った。
「そうですよ、姫様。帝国の兵など、この私が蹴散らしてご覧に入れます」
頼もしいことを言ったのは、後ろに控えていた騎士のウォルターだった。
革の鎧には金細工の装飾がふんだんに取り付けられてある。胸に付いているバラの紋章は近衛兵を示す。彼は長身の美男子だった。剣の腕も王国の中に比べる者が無く、天は二物を与えていた。
「いくら天才剣士のお前でも、帝国の大軍相手ではな……。ここは勇者を召喚し、帝国と戦ってもらわねば」
王はアズベルに目を向けた。




