第39話、武器
「武器ですか……」
俺は重松さんの顔を見つめる。
「ああ、トルディア王国と……ええっと、その何とか帝国との戦いには日本の武器を持っていった方が良いだろう」
彼の表情は平然としていた。日本で銃など手に入るのだろうか。
「ショットガンやライフルなどは、俺が知っているルートで何とか入手することができる。まあ、中古だし、値段が十倍くらいするけどな」
そう言って、無精ひげの丸い顔がニヤリと笑う。
「そこで、佐藤さんたちには費用を出してもらいたいんだが」
重松さんの要求に俺は香奈恵と目を合わせて黙り込む。
ウォルターさんは何のことか理解できないので、いぶかしげに俺たちを見ている。
「ただいまー」
玄関から声がして、野田が居間に入ってきた。
「ちょっと、ちょっと……」
俺は野田の手を引っ張って奥の部屋に連れていく。香奈恵も付いてきた。
「武器を買いたいそうなんだが、どうするよ」
俺は野田に重松さんの要求を説明した。
「うーん。まあ、仕方がないんじゃないのか」
野田が腕組みして言う。
「トルディア王国が帝国に負けてしまえば、成功報酬が手に入らなくなるんだからな」
「なるほど、負けたら元も子もないか」
そうだよな。あの宝物庫の財宝は全て帝国に略奪されてしまうだろう。今は、出し惜しみしている場合じゃない。
「多少は使っても、まだ残りはあるし、帝国に勝ったら前の何倍もの宝石が手に入るわよね」
守銭奴ともいえる香奈恵も賛成か。
「分かった。じゃあ、予算を出すことにしよう」
そう言って俺は自分の部屋に行ってバッグから札束を取り出した。
一人が2千万円を出し、3人分で6千万円をテーブルの上に置いた。
さすがの重松さんも口を結んで鼻から息を吐く。
「裕子、では頼むわ」
依頼された彼女は、自分のリュックに札束を詰め込んだ。裕子さんの表情は、やはり変化がない。
俺たちはシャワーを浴びて服を着替える。
荷物や食料を車に積んで、また異世界に出発することにした。
「じゃあ、共和国を説得してきてね」
笑顔で送り出す香奈恵は気楽だな。
「兄さん、気を付けて」
車のそばに立って重松さんを気遣う裕子さん。心配しているんだか、表情が読めない女性だ。
「ああ、行ってくるぜ」
重松さんの声は自信に満ちている。彼は疲れるということがないのか。
「行ってきますよ」
なんとなく気が重い俺のあいさつ。
意識を集中して関所の向こう側をイメージする。間違って関所の内側に転送したら問題だ。
夕日の差しこんでいる庭がゆがみ、スイッチを切ったように暗くなった。
*
夕日の庭から転送して、日が傾いている荒れ地に表れた。
野田が運転する車は西日の方角に向かう。関所を背中にして、まっすぐ走れば、いよいよ共和国に到着するのだ。




