第34話、災難
車は山道に入っていった。少し上り坂で、道も険しくなってきたが、前方に障害物はない。
草原を走っているときよりも揺れ方が強くなってきたが、後ろの荷室に縮こまっているウォルターさんと後部座席に横たわる重松さんは寝息を立てている。こんな場合でも眠ることができるように訓練してあるのか。
俺はボンヤリと助手席で、ヘッドライトに照らされている森の木々を見ていた。
午前二時を過ぎた頃、野田と交代して俺がハンドルを握る。
あまり運転には自信が無いので、ゆっくりと走ることにした。また、大きな亀裂があるかもしれないから。
夜が明けた時点で、朝食を摂ることにした。
車の中で香奈恵が作ってくれたオニギリと水筒のお茶。彼女はオニギリしか作れないのだろうか。
今度は重松さんに運転を代わった。
運転技術は高いようで、けっこうなスピードを出しているのだが揺れが少ない。車の運転には慣れているようだ。
荷室に丸まって横になった俺は、いつしか寝てしまった。
*
「起きろ! 佐藤」
体を揺さぶられて目が覚めた。野田が引きつった顔で俺を揺すっている。
「何だよ……どうしたんだ」
ボケーッとした頭で上半身を起こす。
車の外にウォルターさんと重松さんが出ている。そして、車を取り囲んでいる五人の見知らぬ人間達。
「山賊だよ! 山賊」
野田が俺の肩をガッシリと握っていた。そうか、この異世界にも山賊というものが存在したのか……。良く見ると、汚れた服に毛皮のような物を羽織っていて、それぞれの手には物騒な刃物が握られている。髭が伸び放題のそいつらは、ゲームに出てくるような、「そうです、私達は山賊です」というような格好だ。
「今はお前達の相手をしている場合ではない。死にたくなかったら、さっさと消え失せろ」
そう警告したウォルターさんは手に長剣を握っていた。
山賊達は怒りで顔をゆがめる。ちょっと、ちょっと、ウォルターさん。そんなに挑発的な言い方をしなくても……。
「こいつらは私一人で十分です。シゲマツさんは車の中に……」
「ああ、いいから、いいから。俺のことは気にしないでくれ」
ウォルターさんの言葉を遮って、重松さんは不敵な笑いを浮かべている。彼の手には長い警棒のような物があった。
ああ、場慣れしているようで二人とも頼もしそうだ。元自衛隊員を連れてきたのは正解だったかも。
「その変な乗り物と金目の物をいただけば、命くらいは助けてやってもいいと思っていたが、お前ら全員をぶっ殺すことに決めたぜ」
親玉と思われる大男が青竜刀のような武器を振って言った。
「やれやれ、命を粗末にする奴らだ」
ウォルターさんは平然と言葉を返す。剣の腕には相当な自信があるのか。
「やっちまえ!」
定番の台詞と共に山賊が一気に襲いかかってくる。ああ、五対二かよ、卑怯者が。




