第31話、戦士は共感する
「そうですか。では、よろしくお願いします」
さっきから黙っていたウォルターさんが、いきなり依頼してしまった。
「はい、了解しました。それで場所はどこなんですか」
重松さんは軽く応じた。
その問いにウォルターさんが答えそうになったのを俺は引き留める。
「ちょっと、ちょっと。ウォルターさん」
彼の腕をつかんで店の奥に引っ張っていった。野田も続いてやってきた。
「ウォルターさん、本当のことを言ったらマズいですよ」
相手からバカにされるだけかも。
「いや、大丈夫ですよ。あの人だったら私が説明すれば納得するはず。こちらに任せてもらえませんか」
涼やかな目で頼まれると断れない感じ。
しかし、本当に大丈夫なのかな。よく分からないが戦いのプロ同士、通じるものがあるのだろうか。
異世界の剣士は席に戻った。
「その場所は、この世界ではありません」
「どういうことです?」
重松さんの視線が曇る。
ウォルターさんは率直にありのままを説明した。相手は無言で聞いていた。
最後まで聞いてから、重松さんは腕を組んだ。
「うーん……。その話は信じられないが、あなたのことは信用できると思う」
そうですかと言って、ニコリと笑うウォルター。
「とりあえず信じることにしましょう。嘘かどうか、転送とやらをしてもらえば分かることだ」
隣の祐子さんは何も言わずにうなずいた。
よく考えたら、ウォルターさんの言葉は日本語になっているのか。あの幼女悪魔は翻訳魔法を上手いこと適用してくれているらしい。
一度、分かれて、夜に野田の実家に集合することにした。
重松さんの方にも準備が必要。
俺達三人は車で香奈恵が待つアジトに戻った。
*
夕食はコンビニのラーメンだ。香奈恵は一度、結婚しているのだから家庭料理を作れるはずなのだが、本人は手料理などを作る気はまったくない。
四人は客間でテレビを見ながらレンジで温めたラーメンを食べている。ウォルターさんは初めてのコンビニラーメンを旨そうにフォークで食べていた。
しばらくして外から車の音がしたので、窓から見るとジープが庭に入っていた。
迎えに出ると、車から重松さん達が降りてきた。その車は後ろに予備のタイヤを取り付けた物で、アフリカの草原を走るようなイメージを持つ外車。ほこりだらけで傷も多い。どのように使ってきたのか。
「こんばんは」
重松さんは無骨に挨拶した。後ろの祐子さんは何も言わずぺこりと頭を下げる。彼女は重松さんの妹ということだが無口な人なのか。
とにかく客間に通す。彼らは自衛隊員のような迷彩服を着ていた。帽子も迷彩柄だ。確か自衛隊は辞めたはずだが。
重そうなリュックを下ろして、畳に座り込む重松さん。ずんぐりとした体格は、あぐらをかくとダルマのようだ。
「それで、費用はいくらでしょうか……」
さっそく野田が聞いた。
重松さんは、そうだなと言って妹と目を合わせる。
「うん、まあ、五十万くらいかなあ……」
こちらの様子をうかがうように金額を提示。
「じゃあ、きりの良いところで百万円を支払いましょう」
そう言って野田はカバンから札束を一つ取り出して、テーブルの上にドンと置く。
重松さん達は目を丸くしてテーブルの現金を凝視していた。




