第30話、元自衛隊員
待ち合わせはモンモンのときと同じく横浜の喫茶店。
彼は元自衛隊員で、今は無職らしい。モンモンこと榎本さんとは知り合いで、横浜で遊ぶこともあるそうだ。掲示板では軍事関係の話で気が合うらしい。
ウォルターさんも日本を見てみたいというので、一緒に出かけることにした。
彼の服はゲームに出てくるモブキャラの村人のようで人前に出すとコスプレと思われてしまう。それで、野田の服を貸すことにした。
「あらら、サイズが違うわね」
香奈恵の言うとおり、長身のウォルターさんに野田の服は合わなかった。
ズボンの丈は短くて足首が完全に出ているし、上着は腹の部分が余ってブカブカ。
「横浜で買ってこよう」
また日本に来ることもあるだろうから、服を余分にそろえていた方が良いだろう。
*
俺と野田、それにウォルターさんはハリアーで横浜に向かった。
通りを歩いていると、若い女が必ず立ち止まって振り返る。金髪でハンサムな外人はうらやましい。でも、美形には美形なりの苦労があるのだろうか。
デパートでウォルターさんの服を一式買ってから五階の喫茶店に行く。
細長いフロアーの喫茶店。その窓際に陣取った。
窓からは駅前の雑踏が見える。
「ご注文は?」
太ったウェイトレスがやってきてオーダーを聞いた。
「コーヒーを三つ」
注文すると、向こうのテーブルに座っていた二人が席を立つ。
「野田さんですか?」
テーブルの端に置いてある目印の金貨を確認しながら話しかけてきた。
「はい、そうです。自衛隊の人ですか」
野田が言うと、相手がうなずく。
丸刈りのガッシリとした男だった。三十歳を超えたくらいかな。背は高い方だと思うが、体がゴーレムのように図太いので、ずんぐりとした印象を受ける。ジーンズにTシャツを着ている。
もう一人は女で彼よりも背が低いが、引き締まった体をしている。ボンヤリとした目つきで愛想がないようだ。髪は長くて顔を半分隠している。美人のような気がするが、化粧っ気がないようなので、よく分からない。でも、胸は大きいような。
「初めまして、重松と申します。こちらは妹の祐子です」
そう言って深々と頭を下げる。見た目と違って礼儀正しいようだ。
コーヒーを飲みながら、最初は雑談から入って、すぐに本題を切り出す。
「なるほど……。そのようなクレバスを渡らなければならないわけですか」
そう言ってカップのコーヒーを飲み干す重松さん。
「そうです、その渡河とかいうやり方を教えて欲しいわけですよ」
「うーむ」
野田が頼んだが、相手は太い腕を組んでうなっている。
「手数料を払います。それから、必要な道具も借りるか買い取りしたいので……」
野田の話を遮るように首を振る重松さん。
「そういった問題じゃないんですよ。訓練をしていない素人だけでは無理だということです」
重松さんは腕を解いて身を乗り出す。
「私達が一緒に行き、現場でレクチャーしましょう。危険な作業なので、それしかないですよ」
俺と野田は目を合わせる。
どうしたものか……。




