第275話、戴冠式
それからは、さらに忙しくなった。
アマンダ共和国を佐藤王国に作りかえる作業と、カマリア王国を併合する作業が並行して行われた。
政治的な変更作業を一人で行っているマテウス宰相は忙しくて眠る暇もない。でも、どことなく楽しんでいる感じもある。元々、彼は事務系の人間なのだ。
一から新しく国を作っていく喜びというものがあるのだろうか。そういえば、俺も昔はシムシティというゲームにハマったことがある。シミュレーションゲーム的な作業には独特な魅力があるようだ。
王国と共和国とでは法律体系が違うので、すりあわせが大変だ。佐藤王国は立憲君主制なので、共和的な法律を優先しなければならない。カマリア王国の法律は佐藤王国の色に塗り直されることになった。
カマリア王国の名前は消え去り、カマリア領と命名された。ギルバート王子は王子の称号を抹消し、カマリア領の領主となる。やはり、今まで統治していた人間が残った方が領民が安心するだろう。
*
佐藤王国の創立記念式と同時に、俺を王様と定めるための戴冠式が行われた。
俺は重いガウンのような服を着ている。それは元カマリア王国から借りたもので、赤い布地に金色の刺繍が施された派手派手なコスプレのような衣装。まるでマンガに出てくる王様のようだ。
議事堂の大広間を飾り付けて、王様の衣装を着た俺が壇上の豪華なイスに座ると、百名を超える大勢の臣下が一斉にお辞儀をした。
俺の後ろには野田と香奈恵。野田は星の王子さまのような服で、香奈恵は宝塚の衣装のような服装。壇上にいるというのは、俺達三人は特別だと皆に知らしめるためだ。
俺から見て左側には文官、右側には武官が並んでいる。
文官の前列にはギルバートとビアンカがいて、武官の先頭は榎本さんと重松さん、それに藤堂さんだ。榎本さんは例の金ピカマントを身にまとい、重松さん達は自衛隊の白い儀じょう服を着て立っている。
副官の和田はいつもの戦闘服を着て壁際で待機だ。その隣には神官の黒い服を着たアズベルがボンヤリとたたずむ。
「これよりサトウ王国の創立を宣言する式典と戴冠の議を執り行います」
マテウス宰相が重々しく言って、佐藤王国の創立宣言書を読み上げた。
それから、小さなテーブルに置いてあった金色の王冠を持ち上げ、うやうやしく高く掲げて俺の元に運んでくる。宰相は俺の前に立ち、ゆっくりと王冠を俺の頭に乗せた。それはけっこう重い。王様はいつもこんな物を頭に乗せて、肩が凝らないのだろうか。
一斉に会場から拍手が湧き上がる。これで佐藤王の誕生というわけだ。
マテウス宰相はテーブルの上の封書を取り上げた。
「キャンベル帝国のレオナルド皇帝陛下より宣誓書を頂いております」
封書を開いて読み上げる。
「宣誓。私、キャンベル帝国のレオナルド皇帝は、サトウ王国を正式な国家として、ここに承認する」
高らかに読み上げると、会場から一斉にコールが起こった。
「サトウ王国、バンザイ! サトウ王バンザイ!」
会場は俺をたたえる声で震えた。
これによって佐藤王国は主権国家として認められたわけか。
とうとう俺は王様になってしまった。でも、これから何をすれば良いのだろうか……。




