第273話、営み
しばらく放心状態でたたずんでいると、勢いよくドアが開いた。
「やったぜ、佐藤! 俺達は超大金持ちだあ!」
飛び込んできた野田は俺に抱きつく。
「すげえぜ! あれだけの財宝があれば北海道くらいは買うことができるんじゃないか」
興奮している親友は、ピョンピョンと跳ねて喜びを表した。
……北海道は無理でも西之島くらいは手に入れることができるかも。
「ところで、ミッキーはどうした?」
野田は部屋を見回した。
俺は大きくため息をつき、アゴでプールの方を示す。
彼はプールの穴に歩いて行き、下を覗いた。
振り向いた表情は、これ以上ないというくらいに歪んでいて、明らかに俺を非難していた。
「何もこんなに残酷に殺さなくても……」
野田の言葉を聞いて副官が床に視線を落とす。
有能な敵よりも無能な味方の方がやっかいだ。
「……成り行きだ。仕方がない」
吐き捨てるように言って、俺はそっぽを向いた。
*
それからは忙しくなった。
重松さんは軍務省を統括して、榎本さんと一緒に軍隊をまとめている。
マテウス宰相は佐藤王国の枠組みを構築すべく、毎日がデスクワーク。マテウスさんは元々、事務処理が好きなようだ。
議事堂は王宮となり、そこで俺が執務をこなすことになった。執務と言っても他人に全て任せているので特にやることはない。
ミッキー老人の邸宅は、俺の自宅にした。当然、あの気持ちの悪い人食いワニは森の奥に捨ててしまった。
邸宅の管理はルーシーさんに任せている。老人がいなくなって、彼女の雰囲気が明るくなったような気がする。
野田は宰相になろうと思っていたみたいだが、皆に反対された。
彼に宰相を任せたならば、若い女性はコスプレするのが義務として法令に定められるだろうと心配したのだ。コスプレハーレムの夢が崩壊して彼は落ち込んでいるが、そのうちに機会はあるだろう。野田は王がいないときの代理という地位になった。
アズベルは王宮の神官に任命したが、彼女はやる気がないよう。日本にいて、ポテトチップスを食べながらテレビを見ていた方が楽でいいという感じだ。
ミッキーの財産は、一部を俺達で分配し、残りは国家予算に入れた。戦争後の混乱があるので、民衆を統治するために使うのだ。
元アマンダの国民は暴動を起こすこともなく、王制を受け入れてくれた。
民衆にとって国家の体制はあまり重要ではないらしい。
働いて賃金をもらって食事をして、安心して眠ることができれば、共和制だろうが君主制だろうが関係ないのかもしれない。
統治者が変わっても、つつがなく家庭の営みが続いていくことが大事のかな。
今まで戦争が続いたので、民は安心した生活を求めているのだ。俺の佐藤王国はキャンベル帝国に属しているので、帝国軍から攻められることがない。それだけでも佐藤王国を支持する理由になるのだろう。




