第27話、迂回
「じゃあ、そろそろ行くか」
そう言って野田がハリアーのエンジンを掛けた。
向こうに戻って、すぐに逃走するということも考えられるから、準備はしておかないと。
「頑張ってねー」
香奈恵が笑顔で小さく手を振っている。
「行ってきます」
後部座席のウォルターが律儀そうに返事をする。
広い庭には月明かりによる影が、くっきりと映し出されていたが、野田が車のスモールランプを点けると周りを薄明かりで塗りつぶした。
「よし、転送だ」
俺は助手席で、タントが転倒した場所を思い浮かべる。だんだん、転送のコツもつかめてきたかも。
視界が渦を巻き、暗闇に飲み込まれた。
*
目の前は黒く開けている。あの草原に戻ってきたのだ。
「エンストかな」
車のエンジンは止まっていた。野田がキーを回すと問題なくエンジンが始動。
「転送するとエンジンの回転エネルギーが消えてしまうのか」
そう言ったが、スモールランプは点灯している。機械的な運動エネルギーだけが消失してしまうという現象なのかな。転送には、まだ知らない細かい条件があるようだ。
「もう、敵兵は去ったようなので、すぐに出発しましょう」
後ろのウォルターが催促したので、野田はハンドルを握ってアクセルを踏む。
強力なライトに照らし出された草原。まるで車が川を遡っているように流れていた。
軽自動車と比べて、やはりオフロード車は悪路でも快適。俺もハリアーを買おうかな。でも、あまり運転していないから小さな車の方がいいか。
「帝国の首都を大きく迂回して山道を通りましょう」
ウォルターの指示通り、野田は北西に向かう。この惑星にも磁場はあるようで、フロントガラスに取り付けてある方位磁石はきちんと動いていた。しかし、カーナビは地図情報なしと表示されていて使えない。
しばらく、真っ平らな草原を走った後、山道に入った。
険しい坂道だが、馬車の通り道らしく、それなりの幅がある。SUVなら問題なく通ることができる。
「山道は危険なので、明るくなるのを待った方がいいでしょう」
ウォルターは帝国領の地理を知っているが、細かい地形までは把握していないと言う。
車を適当な場所に停め、夜を明かすことにした。
後ろのスペースにウォルターが寝て、俺達はシートを倒して寝ることにした。
アマンダ共和国をどのように説得するかを話し合っているうちにウォルターさんは寝息をたて始めた。見た目よりも、けっこう豪胆な性格をしているようだ。
疲れていたのだろう。お金の使い道とか考えていたら意識が薄れていった。




