第269話、ハラホレヒレハレー
ミッキー老人はワニのプールの上に吊された。
「さあ、さっさと解除方法を言えよな。さもないと、ワニのおやつにするぞ」
俺が脅迫したが、ふて腐れたように笑う老人。
「やれるものならやってみろ」
あ、こいつ開き直りやがった。
「いいのか? あんたの残り短い人生、寿命の最後まで生きたいと思わないのかよ」
「できるものか」
「ん……?」
「ワシが死ねば扉を開けることは不可能だ。鉄骨を使って頑丈に作ってあるからのお」
老人は口の端を曲げて笑う。
「力づくで開けようとすれば、中の美術品などは傷ついてしまうじゃろう。それで良いのかな」
形勢逆転したと思っているのか、このジジイは。
「サトウ王よ、モノは相談じゃ。まず、財産と鉄骨の採掘権の半分はサトウさんにやる。そして、ワシを宰相にしてくれ。キャンベル帝国ともパイプが太いから、かなり役に立つぞ」
嫌な笑いを浮かべて、こちらを向いている。
その歳になって、まだ権益をむさぼるつもりかよ。
「……その申し出は断る」
「なんじゃと……」
「あんたが死んでも、金庫室は開けることができる。日本から鍵開けのプロを呼んでくればいい話だからな」
老人の笑いが消えて口がゆがむ。
「さっさと言えよ、ジイサン。今すぐに白状したら命は助けてやるし、残りの人生で少しは贅沢ができるくらいの財産はくれてやるからよお」
俺が言うと「ちっ」と舌を鳴らして黙り込む。
「やれやれ、早く言った方が身のためだぜ。あんたを吊している副官も腕が疲れているぞ。うっかり、手を放しちゃうかもな。そうだろ、なあ、和田副官」
俺の問いに彼は平然とした顔で答えた。
「いえ、私は全く平気ですが」
ハラホレヒレハレー。俺はずっこける。そうだ、このゴリラは空気を読むということができない生物だった。




