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異世界転生、王様になろう  作者: 佐藤コウキ
第4部、王になろうとする男
268/279

第268話、ワニワニパニック


「じゃあ、野田。地下に行ってくれ」

 金庫室は彼に任せて、俺は老人にドアのロックを外す方法を聞く担当だ。

「こんなことをして、どうなるか分かっているのか」

 動けないように拘束しているのに、この老人は俺を恫喝してくる。

「へえー、どうなるんですか」

「ワシは帝国にもパイプがある。後で仕返ししてやるぞ」

 この老人もモルトン議長もキャンベル帝国と繋がっていたか。帝国と戦争をしていても互いにコミュニケーションはしていたんだ。

「好きなようにしろよ、ジイサン。それまで生きていればな」

 脅すと老人は小さな目を開いて震える。

 ああ、弱い者いじめはけっこう楽しいかも……。だから、世の中からいじめが無くならないんだなあ。

 老人の財産を奪うことに重松さんは同調しなかった。それは略奪になってしまうと考えたからだろう。でも、俺達を制止することもしなかった。重松さん達も老人には思うことがあったんだよな。


 スマホが鳴ったので、出てみると野田からだった。

「金庫室の前に来たぜ」

 野田の周辺では日本と電波環境がリンクしている。

「ああ、分かった」

 俺はスマホを切ると、老人に対した。

「それで、開ける番号は?」

 金庫室のドアには数字が書いた押しボタンがある。それは機械式のロックで、決まった順番にボタンを押さないと開かない。

「知らん!」

 老人はそっぽを向く。

「あんた、今の状況が分かっているのかよ」

 俺は手すりに近寄って下のプールをのぞき込んだ。下では大きなワニが泳いでいる。

「このワニは腹が空いているようだな。あんたをロープで吊り下げたら飛びつくだろう。リアル・ワニワニパニックのゲームを開始するぞ」

「わにわにぱにっく?」

 老人が眉間にしわを寄せる。

「あ、いや……とにかく、足を食われたくなかったらパスワードを答えた方がいいぜ」

 睨みつけると、彼は下を向いて目を左右に揺らす。

「分かった。解除の番号は五二三一じゃ……」

 俺はその番号をスマホで野田に伝えた。

 スマホからドアが開く音が聞こえた。

「おお、佐藤。開いたぞ。あ、中にも扉があるぞ。……これはダイヤル式だ」

 二重になっていたのか。用心深いジジイだぜ。

「さあ、次の解除方法は?」

 ミッキーは下を向いたままつぶやく。

「右に二回転してクリアした後に35に合わせて、それから……」

 俺は、聞いたことをそのまま野田に伝えた。

 しばらく待つと、野田の大声。

「何だよ! 入り口のドアが閉まっちまった。真っ暗闇だ、ライトを持っていて良かったぜ」

 大きくため息をついて老人の胸ぐらをつかむ。

「ここまで来て、まだ悪あがきするのかよ。そんなに財産が惜しいのか。自分の命よりもお金が大事なんだろうな」

 老人をつかんだまま、プールに近づく。

「ここに吊り下げられたら、あんたの考えも変わってくるだろうさ」

 餌をやるために手すりが切れている箇所があった。

「何をする気じゃ!」

「和田副官」

「はっ」

 老人の腕を固めていた彼が背筋を伸ばす。

「こいつを少し怖がらせてやれ」

 ゴリラのような和田副官は戸惑っている。

「は、はあ……。あ、あのう……怖がらせるとは?」

 こいつと話すと力が抜けるんだよ。機械に分からせるように細かく具体的に指示しなければならない。

「あー、つまり、こいつの両手を握って持ち上げてから、プールの上に持ってくるんだ」

 和田はその通りにした。

「そう、そうだ、いいぞ。そして、君は一緒にプールに落ちないように足を踏ん張ってだなあ……、そうだ、それでいいんだ」

 あー、気疲れする。


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