第259話、婚約者
日本の自宅に転送完了。
俺達の周りを藤堂さん達が囲んでいた。
「どこだ、ここは!」
和田副官に腕を固定されているオズワルド公爵が叫ぶ。
「ここは日本ですよ。異世界にようこそ、オズワルド司令官殿」
俺が説明すると、キッと睨まれた。
「こんなことをして何をする気だ。お前達がどうなるか分かっているのか、サトウ司令官。我がキャンベル帝国を敵にする気か!」
やつの平凡な顔が引きつっている。
「はい、はい……とにかく、話は家の中に入ってからですね」
俺は平然と言って、彼を連れて行くように副官に指示した。
公爵は暴れながらも副官の怪力に引きずられていく。
「靴を脱げよな」
そう言って野田が乱暴にオズワルドの靴を引っ張って外した。
居間に入るとピンクのセーターを着たビアンカ姫とトレーナー姿のアズベルがいた。
「おお、ビアンカ姫! 息災で何よりだ。私を解放してくれ。そなただけは罰を受けぬように配慮してやろう」
姫を見て興奮している平凡な顔のオヤジ。
ビアンカ姫はフンと鼻で笑うと、フルフルと首を横に振る。
「私は、サトウのおじさまと婚約したのです。もう、あなたがどうのこうのと指図しても無意味です。そうですよね、おじさま」
そう言うと彼女は俺の腕に抱きついた。オズワルドは目を大きく見開いて俺達を凝視する。
ああ、そうか。そういうことにしておけば、このオズワルドもビアンカのことをあきらめるだろう。ここはビアンカに話を合わせておくか。
「ビアンカの言うとおりだ。俺達は許嫁の間柄なんだぞ。それは兄のギルバート王子とお父上のジェームズ王も了解している。お前が入り込む隙間などはありえませんですたよ……」
ちょっとドギマギして噛んでしまった。
野田がヒューと大きく口笛を吹く。藤堂さん達は苦笑いしていた。
「お前がフィアンセだと……」
オズワルドの顔は原型が分からなくなるくらいに引きつっている。
「そうです。サトウのおじさまとは、ずっと前から一つの家に一緒に住んでいるんです」
ビアンカは俺の腕を抱く手に力を込めた。
確かに俺の邸宅に彼女は住んでいるが、同棲というわけではない。この新築の家は皆が勝手に使っているので、雑居ビルのようになっているんだよな……。
しかし、オズワルドはビアンカの言葉をしっかりと真に受けたよう。
「何だとお! お前は俺の女だぞ、この尻軽女があ……。フラフラとニホン人などと通じやがって……この商売女が!」
口を曲げてビアンカを罵るオズワルド。
ビアンカは少し顔を青ざめさせ、唇を結んでジッと受け止めていた。
白いロングドレスの香奈恵は、第二弾の攻撃をすべく両手でドレスすそを上げている。
「いい加減にしろよ。まったく外道な男だぜ」
藤堂さんがオズワルドにちかづく。
「とくかくだ、帝国軍をアマンダから撤退させろ。アマンダは俺達に任せる、そういった約束を皇帝としていただろう」
淡々と藤堂さんが言うが、公爵はそっぽを向いた。




