第254話、非道
しばらくの沈黙の後にワイスマンが口を開く。
「それなら、試しにアマンダの北に広がる荒れ地で使ってみろ」
対して重松さんが首を横に振る。
「その通常ではない爆弾は一個しか在庫がない。手に入れるのが容易ではないので試験的に披露するのは無理だ。本番でじっくりと味わっていただこう」
重松さんの口調は変わりがない。いつも自信満々だ。
「そんな、危険で気色悪い兵器を作ろうとする人間がいるはずがない。嘘に決まっている」
ワイスマンが決めつけるが今ひとつ、口調に確信がこもっていない。
「存在する!」
藤堂さんが断言した。まあ、本当にあるんだから間違いではないよな。
しかし、人類は核兵器のような始末に負えない武器をどうして作ってしまったんだろう。
ワイスマンとオズワルド公爵は顔を近づけてヒソヒソと話している。
このブラフで素直に帝国に帰ってくれれば良いのだが……。
相談が終わったようでワイスマンがこちらを向く。
「分かった。その爆弾を使ってみろ」
重松さんがムッと口を結んで言葉に詰まる。
ワイスマン達は開き直ったのかよ……。
「本当にいいのか。帝国は消滅してしまうんだぞ……」
さすがの重松さんも語尾に力がなくなっている。
「ああ、構わないよ。好きなようにやってくれ」
ワイスマンは薄ら笑いを浮かべている。
「信じていないようだな……。ならば、栄光あるキャンベル帝国の終焉をこのアマンダから見物すれば良い。帰る国がなくなっても構わないというならな」
ちょっと見には分からないが、重松さんの関羽のようなあごひげが震えている。
「だから、好きにやっても良いと言っているだろう。さっさとニホンに帰って準備してこい」
放り出すように言うワイスマン。
ヤバいなあ……。脅しが通じない。向こうは嘘だと思っているらしい。
「仕方がないな……交渉決裂だ」
重松さんがつぶやくように言って、それから両者とも無言が続く。相手の表情を見て腹の探り合いをしているのだろうか。
「まあ、お前達の話が本当かどうか、はっきりしていないというのが正直な感想だ」
ワイスマンは本音を言っているよう。
「だが、そのような爆弾をニホン人は使うことができるのか? 犠牲になるのは帝国軍だけではない、罪のない非戦闘員の住民が数十万人も苦しみながら死んでしまうんだろう? 大勢の無抵抗な女子供を惨殺することが、あんたらにできるのかよ」
そう言ってワイスマンが俺達をねめつけた。
重松さんは言葉を継げずに口を結ぶ。
「俺だったら、そんな非道なことはできない。いや、人間だったら誰でもそんな虐殺行為はできないさ」
ワイスマンが勝ち誇ったように言った。
「無数の平和な家庭を踏み潰すようなことは人間にできるようなことじゃないよな。第一、戦争に勝つために人民を犠牲にするような指導者は人民に認めてもらえないだろう。その手は血にまみれ、それは永遠に消えることがない。そんなことはバカでも分かる」
口の端を曲げてワイスマンが笑う。
そうは言うけど、こちらの世界じゃあ使った人間がいるんだよなあ。




