第251話、処遇
「敗戦を受け入れたのち、政府高官や軍部の主だった人間の処遇はどうなるのか」
ジョンソン将軍の顔は真剣。返答次第では戦い続けることも辞さないつもりなのか。
「どうしますか。佐藤司令官殿」
重松さんが軽く振ってきた。ヒゲ面が少し笑っているよう。
ジョンソン将軍が鋭い目で俺を見る。勘弁してくれよ、無茶振りだぜ、それは……。
「えーと……こちらの指示に従ってくれれば、処刑などはしません。主要人物はしばらく軟禁して監視を付けるつもりですが、状況が安定すれば解放するでしょう」
チラリと藤堂さんを見ると、小さくうなずく。
「えーと、それから……徴兵した市民に関しては、武装を取り上げた後、罰則を科せることもせずに解放します。つまり、そのまま家庭に戻って構わないということです……ということで構いませんよね」
重松さんの方を見て確認すると、まん丸の笑顔で重松さんは首をコクリと縦に振った。
「了解しました。私と、その部下をサトウ司令官閣下にお預けいたします」
そう言ってジョンソン将軍は敬礼した。
「あ、はい、どうも」
俺は慣れない敬礼を返した。
*
トヨタ・ランドクルーザーはジョンソン将軍を乗せてアマンダの首都を目指す。
荒れた道は車を揺らすが、サスペンションや座席のクッションが優れているので不快には感じない。
無言の車内。朝が近づいているので、窓から見える景色は薄明るくなってきた。
武装放棄したアマンダ軍は榎本軍師がまとめている。武器などの荷物を荷馬車に積んで、俺達の後を追うことになっている。
「戦わずに降伏して、後悔していませんか」
不意に藤堂さんがジョンソン将軍に訊ねた。
将軍は、チラリと横の藤堂さんに目をやると、しばらく黙ってから口を開く。
「後悔はしています……。どうせなら知略の限りを尽くして榎本軍師と戦いたかったですね」
「では、どうして武装放棄に応じたんですか」
藤堂さんが追求する。
同じ軍人として興味があるのだろうか。もう終わったことなんだから、そんなに深く聞かなくても……。
「私は共和制国家の軍人です。アマンダ共和国が滅んだとしても軍人としてのプライドは捨てたくない」
藤堂さんは黙り込む。
「共和国の軍隊は政府に従うべきなのです。共和制が崩壊するとしても、私は最後まで共和国の軍人であるという矜持を持っていたいのですよ」
そう言ってから将軍は、困ったような顔をしてフフフと小さく笑った。
藤堂さんは何も言わずに口を結んでうなずく。ジョンソン将軍の言葉は彼の胸に響くものがあったのか。
後方から朝日が差してきた。車の影が前方に長く伸びる。
時々、休憩しながら首都に向かって走って行く。
転送したいところだが、異世界に転送したら、一日は異世界に転送できないという二十四時間ルールがあるので現地を進むしかない。
夜も連続して走って行く。俺と野田は荷台などを利用して適当に睡眠を取った。
翌朝は車を止めて、外でレーションを食べた。
ジョンソン将軍は以前の戦いのときに自衛隊の軍用食料を食べているので、抵抗はないようだが、モルトン議長はまずそうに食べている。
食べたらすぐに出発。早くアマンダに行って、国の統治活動をしているクローゼ将軍を手助けしなければ。
しばらく走って首都に近づく。
まもなく、町並みが見えてくるはず。
「あ! あれは何だ」
運転していた重松さんが大声を出した。
身を乗り出してフロントガラスを覗くと、町の手前に帝国軍の軍隊がいた。クローゼ将軍の部隊とは旗印が違う。
一体、どうしたというのか。




