第25話、脱出
視界が明るくなると、そこは野田の実家の庭だった。
古くて大きい家。庭も広くて端の方に畑があるが、今は放置されて雑草だらけ。
「ああーん、もう!」
香奈恵がドアを押し上げて車から抜け出す。横転したまま転送したので、上のドアから出るしかない。ウォルターさんはハッチバックを開けて外に出ていた。
俺もやっと脱出した。香奈恵はボロボロになったマイカーを見て泣きそうな顔。
「まったく、あたしのタントちゃんがあ!」
ウィンドウも割れてオイルの匂いがする。もう廃車するしかないだろうな。
「あれ? どうしたんだ」
騒ぎを聞いて野田が家から出てきた。
「一体、何があったんだよ……あ、ウォルターさんも一緒ですか」
ジャージ姿にサンダルを引っかけている。こっちは死にそうな目に遭ったというのに、のんきなもんだ。
「敵と一戦交えたんだよ。また行かなければならないだろうな。お前のハリアーを貸してくれ」
ため息交じりに俺が頼むと、うんと言ってうなずく野田。
「もう、あたしは行かないわよ! 今度は誠一郎が行きなさいよ」
プンスカ怒っている香奈恵。
「新しい車を買えばいいじゃないか。予算はたくさんあるんだからさあ」
俺はアゴで地面に転がっている木箱を指す。
その隣では美形の剣士がキョロキョロと辺りを見回している。日本に転送するのは初めてだろうからな。
「サトウ殿! あなた達のお姿が……」
ウォルターが俺達三人を見て驚いている。
「ああ、そうなんですよ。これが俺達の本当の姿なんです」
日本に帰ってくると以前の中年オヤジに戻ってしまうのだ。しかし、ウォルターさんは元のまま。悪魔の魔法は俺達だけに適用されているらしい。
「誠一郎。ちょっと手伝いなさいよ」
車の後方に横倒しの木箱を起こそうとする香奈恵。野田が一緒になって箱を立て、締めてあったヒモをほどいて蓋を開けた。
「うぉー!」
小さくない叫びをあげる野田。
中の黄金は健在だ。俺達は野田が持ってきた衣装ケースに木箱の中身を移し、台車で家の中に運ぶ。
「また換金してくるわね」
そう言って、香奈恵は小さな段ボール箱に金貨などを入れた。
王国から持ってきた二つの木箱のうち、一つは共和国を説得するための準備金で、もう一つは俺達のポケットマネーになるという寸法だ。
俺達三人が目を輝かせて貴金属を山分けしている姿をウォルターさんは不思議そうなまなざしで見ていた。




