第233話、信じて待つ
日が暮れ、日が開ける。
俺は日本に転送して食料や医薬品、武器弾薬屋などを持ってきた。
北に向かったアマンダ軍は戻ってこない。
そしてまた、日が暮れ、日が開ける。
まだ、敵の姿は見えてこない。
初冬の風は身を震わせる。俺と野田は厚手のジャケットを着て、さらにホカロンを使っていた。
やることもないので、俺達はテントにこもってインターネット三昧だ。
俺はスマホでユーチューブを見ている。野田はタブレットで冬アニメをチェックしていた。
本当にアマンダ軍は戻ってくるだろうか。榎本軍師の読みに間違いはないと思うのだが、物事に絶対ということはない。榎本さんだって読み違えることはあるだろうし、敵のジョンソン将軍の気が変わってカマリア王都を攻めることも考えられる。
……何もせずにボンヤリと毎日を過ごしていると、余計なことを考えてしまうよな。今は榎本さんの軍略的な才能を信じて待つしかない。
重松さん達は、砦の周囲に指向性対人地雷を設置していた。
敵は大軍なので、こちらはベルキア砦での防御戦になる。正面には通常の地雷を埋設してあり、その他の方角にはクレイモア地雷を隠して取り付けることになった。
湾曲型地雷の信管にはワイヤーを取り付けてトラップにする。地雷は木の根元に取り付けたり地面に置いたりして、その上に枯れ草などを掛けてカモフラージュしていた。
トラップにすると無差別攻撃になるので向こうの世界では違法だが、こちらの異世界では条約がないので何でもやりたい放題だ。
「警戒態勢! 全員、持ち場につけ!」
指向性地雷の取り付けが終わりそうになった頃、重松将軍の警戒発令が出た。
屋根瓦の様な地雷に枯れ草を乗せていた俺と野田は慌てて砦の中に駆け込む。
砦の正面方向に着くと、向こうの山並みに人の群れが動いているのが見えた。アマンダ軍が戻ってきたのだ。
やはり、榎本軍師の洞察は完璧。優秀なジョンソン将軍の上を軽く飛んでいる。
敵軍は、元いた陣地に戻っていく。
アマンダ軍はカマリア王都に進撃すると見せかけて、森などでジッと身を隠して俺達を待っていたのだろう。そして、いくら待ってもカマリア軍が来ないので、とうとうあきらめて帰ってきたのだ。
敵にとっては、とんだ徒労だったな。
「思った通り、敵はこちらの補給線を切断しましたね」
そう言って、フンと鼻息を吐く榎本軍師。
「どういうことなんですか……」
俺が聞くと、小さくうなずいて説明してくれた。
「王子から無線で連絡があって、食料の運送ができなくなったそうです。敵が補給路に待機して、荷車が通れなくなっている」
そうか……そう来たか。まあ、補給線を絶つのは戦争の常識、ジョンソン将軍なら必ずやるだろうな。
俺の転送で日本から食料を運ぶこともできるが、五千人の腹を満たす量を持ってくるのは無理というもの。
しかし、ロジスティクスを攻められても榎本軍師には動じる気配がない。
「そろそろ、別働隊がアマンダの赤壁に近づいている頃です。そちらの方の作戦を開始しましょう」
軍師は先の先を考えている。戦場において迷うことがないのは、いつものことだ。




