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異世界転生、王様になろう  作者: 佐藤コウキ
第1部、異世界転送
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第23話、関所破り


 しばらく走っていくと、また関所が見えた。

「あそこからは帝国の領地です。強引に押し破るしかない」

 ウォルターが身を乗り出して前方を凝視していた。

「突破するのお……」

 香奈恵が振り返ってウォルターに聞く。

「その方がいいんじゃないか。相手は自動車という物を初めて見るはずだから迷いがあるだろう。その意表を突いて走り抜けるしかない」

 俺の言葉にウォルターがゆっくりうなずいていた。

「仕方ないわね……タントちゃんが傷つかなけりゃ良いけど」

「壊れたら、今度はレクサスを買えよ」

 後ろには財宝を積んでいる。軽自動車ごときで悩んでいる暇はない。


 車は徐行して関所に近づく。

 門の警備兵は目を丸くして口を開けていた。

「こんにちはー」

 窓を開け、香奈恵が笑顔で挨拶をした。すると相手も槍を持ったまま引きつった笑顔。

「お前達は何者だ……どこへ行くのだ」

 それは痩せた男だった。しかし、彼の目は鋭く光り、良く訓練されていることを物語っていた。

「わたくしどもは帝王に会いに行きます。この乗り物は帝王に献上する魔道具です」

 適当なことを俺が言った。帝王という言葉を出せば、俺達を粗略にはできないだろう。

「ちょ、ちょっと待っていろ」

 さすがに帝王という言葉は重いようだ。兵は詰め所に向かっていく。責任者にお伺いを立てるのかな。

 今、車の前方には警備兵が三人。何とかなるんじゃないのか。

「おい、香奈恵……」

 俺の考えを察して彼女が小さくうなずく。ウォルターも革製のリュックの中に手を入れている。剣を握りしめているのだろう。

 香奈恵がアクセルを踏み込んで急発進。前輪をスリップさせながら門に突進した。

 兵が立ちはだかろうとしたが、俺が鳴らしたクラクションに驚いて後ろに引っ込む。

 車は全速で関所を通り過ぎた。

 しばらくして後ろを振り返ると、警備兵が立ちすくんでいる影が遠くに見えた。


  *


 トルディア王国からアマンダ共和国までは、直線で約二千キロメートルほどだ。

 平均して時速五十キロで進めば、一日に四百キロは行くことができる。だから、五日くらいで共和国の入り口に着くはず。

 帝国がやって来るのは十日後だから、何とか間に合うだろう。


 車は、道があるんだか無いんだか分からないような草原を走っている。

 地平線が見えるような所をドライブするのは初めてだ。北海道なら、このような場所があるだろうか。

 青天の空の下、朝から走り続けて、途中で昼食の休憩。それからは香奈恵と交代して俺が運転している。


 ふと気がつくと、地平線の向こうに黒い物が見える。

 林かなと思って何も言わずに直進していった。

「サトウ殿! 止めて下さい」

 ウォルターが俺の肩をガッシリと握っている。

 俺は慌ててブレーキを踏んだ。車は少し後輪をすべらせて斜めに停止した。

 美形の剣士は車から降りて、道の先をじっと見る。

「帝国軍です……もう、ここまで来ていたのか」

 俺はダッシュボードから双眼鏡を出してフロントガラス越しに先の方を見た。

 それは軍隊だった。先陣は騎兵で、馬に乗った兵が槍を持ってこちらに疾走してくる。まるで森が移動しているような大軍。

 こんなやつらと戦おうとしているのか俺達は。

「どうしよう……」

 香奈恵の震える声。

「逃げるしかないだろう」

 シフトレバーを握る手に汗がにじむ。

 ウォルターが座席に座るのを待って、俺はアクセルを踏み、ハンドルを右に切った。


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