第222話、調理マシン
休憩を終えて、部隊は出発する。
橋を渡って向こう岸に。ドローンで遠くまで偵察したが、敵の姿は見えない。アマンダ軍はベルキアの砦に集合しているのだろうか。
こちらの世界でも冬になると日が短くなるようだ。チプカシを見ると午後5時前だが、日が傾いて辺りは暗くなっている。
部隊を止めて夕食の支度をすることになった。
一般の兵はカマリア王都から持ってきた食料を食べている。
ほかほかのご飯を食べることができるというので、俺は重松さんと一緒に日本に転送した。
俺の家の前には見慣れないトラックが置いてあった。
それは自衛隊の軍用トラックで、後ろに変な機械を牽引している。
その機械からは湯気が立っており、香奈恵とアズベル、それにビアンカ姫が何やら操作していた。
「これは何ですか?」
俺が重松さんに聞く。
「ああ、これは自衛隊の野外調理マシンさ」
そう言って、箱のフタを開くと湯気が出て、中には炊きたてのご飯が入っていた。
「あたし達が作ったのよ。ちゃんと感謝して食べてよね」
香奈恵は得意そう。おにぎりと焼きそば、チャーハンくらいしか作れない彼女だから、味の保証はないだろうな。
「さあ、佐藤司令官。これを向こうに転送だ」
「はい、分かりました」
俺がトラックの端をつかんで転送しようとするとすると、ビアンカ姫が近づいてきた。
「サトウのおじさま。頑張ってくださいね。そして、お兄様をよろしく」
そう言って、両手でスカートの裾をつまむ。
姫はエプロンを着てもサマになっている。結婚して若妻となったら、毎日こんな姿を見ることができるんだよな。
「大丈夫、任せてください。……じゃあ、転送します」
そう言うと、俺の肩に重松さんが手を置いて「おう」と低い声で言った。
異世界でも外は暗くなっており、電池式のランタンでハイラックスの辺りを照らしていた。
重松さんは、調理マシンのフタを開けて、ご飯を皿に盛ってカレーを用意してくれた。
トレイにはカレーと牛乳パック、野菜サラダが乗っている。それは心配することなく、かなり旨かった。自衛隊は戦場でも家庭的な食事を食べることができるのか。
ジョセフ将軍にカレーを勧めたが、あからさまに嫌な顔をした。ご飯などは今まで見たこともないのだ。しかし、最初は恐る恐るスプーンで少しずつ食べていたが、しばらくするとガバガバと頬張り始めた。食べ終わったとき、お代わりありますか、と言ってカラになった皿を差し出してきた。よほど気に入ったのか。
お米は大量に炊飯してあったので、余ったご飯はおにぎりにして予備的な食料にする。
転送したトラックには米やレトルト食品が満載してあった。しばらくはミリメシを食べなくても済むのかな。
そこにテントを張って一泊することにした。
翌朝、朝食を食べてから出発した。




