第22話、車で出発
翌朝、朝食の後、車の近くに集まった。
東の空には太陽が輝いている。これから西のアマンダ共和国に行って、性に合わない説得などということをやらなければならない。
共和国に向けて出発しようと車のドアハンドルに手を掛けると、ウォルターが小走りでやってきた。
「勇者殿。どうか私も同行させていただけませんか」
顔を見合わせる俺と香奈恵。
「道中は何かと危険です。私が勇者殿の警護を務めたい」
真剣な顔。ハンサムな男はどんな表情もサマになる。
「いや、それは……」
べつに、すぐトンズラするつもりはないが……。
香奈恵が俺の袖を引くので、少し離れた場所に移動。
「逃げないように見張りのつもりかしらね」
「それはないだろ。人質を残しているし」
キャサリン姫の横に立っている榎本さんを見る。やはり彼は不安そうに顔を曇らせていた。
「断る理由が見つからないわ」
俺はうなずく。ここで断ったら俺達に対して不信感を抱くかもしれない。
「仕方がないわね……」
再度うなずく俺。
香奈恵は車の近くに戻る。
「ええ、分かりましたわ。よろしくお願いしますね、ウォルターさん」
そう言ってニコッと営業用のスマイル。美形の剣士と同乗できて少し喜んでいるのか。
ウォルターが準備するのを待ってから三人で出発した。
運転席でハンドルを握っている香奈恵。俺は助手席で、後ろの席にはウォルターが普段着で収まっていた。彼の横には大きな布袋があり、その中身は剣などの武器のようだ。
車は馬車用の道路をかなりのスピードで走って行く。
「これが勇者殿の世界の乗り物ですか」
一度も車に乗ったことがないウォルターが感心して言う。馬車よりも何倍も速く移動する乗り物は初めてなのだろう。
彼は後部座席に座り、俺達の真似をしてシートベルトを装着していた。
山道を走り、道が開けると、先には王国の関所があった。
木の柵で作られた簡単な関所。ウォルターは車から降りると関所に常駐している警備兵と話していた。
しばらくして門が開かれた。
「話は通りました。先に進んで下さい」
戻ってきたウォルターがうながす。
香奈恵はアクセルを踏んで関所を通り過ぎる。門の端では警備兵が敬礼をしていた。
アマンダ共和国に行くには、キャンベル帝国の中央を突破しなければならない。
帝国を避けていくとすると、大河や峡谷、それに他の小国を通らなければならないのだ。帝国と争っている現在、他の国と問題を起こすことはできない。
ダイハツ・タントは、真っ直ぐに伸びる荒れた道を疾走していく。




