第218話、応戦
「では、予定通りに作業するように重松さんに伝えてください」
榎本軍師がジョセフ将軍に言った。
「作業?」
俺の問いには答えずに、軍師は小隊長達に指示して部隊の陣形を変えた。
その陣形は変な形で、前後に長い楕円形をしている。前方に俺達が乗るオフロード車を配置して、その前に簡単な柵を作って防御形態にしていた。
この場合は狭い地形を利用して横に長い横陣にを組み、敵が後方に回り込むのを防ぐか、または鶴翼の陣で敵を懐まで誘い込んで包囲攻撃すると思うのだが、榎本軍師の思考は天衣無縫で読み取ることができない。そして、それは敵にとっても同じことだろう。
しばらくして、アマンダ軍がやってきた。
敵は前方の丘の上で陣形を整えている。それは魚鱗の陣で、中隊を一つの攻撃隊とする。複数の中隊が魚のウロコのように配置されるので魚鱗と名付けられているのだ。いわゆる突撃に特化した形で柔軟性には欠けるが、今は戦力に倍しているので一気に片を付けてしまおうというのだろう。
敵のジョンソン将軍は、ゆっくりやっていると榎本軍師の術中にハマってしまうのではないかと怖れているのだと思う。
車のハンドルは祐子さんが握っている。荷台のマシンガンは榎本さんで、俺たちはオフロード車の横でショットガンを構えていた。
車の前に、三重の木の柵が完成したときに、重松さん達が戻ってきた。
「榎本さん、作業は終わったぜ」
この寒空に汗をかいている重松さん。だが、迷彩服がびっしょりと濡れている。
「お疲れさまです」
そう言って榎本軍師がマシンガンの安全装置を外す。
彼と和田はライフルを持っている。日本組は最前線で戦わなければならないようだ。
「では、全軍撤退!」
榎本さんの号令が響く。
あれ? 逃げるのかよ。
ジョセフ将軍が指揮して、カマリア軍を後退させる。それと同時にアマンダ軍が駆け下りてきた。
ハイラックスはバックしながら、撤退していく軍に続く。運転席の祐子さんは片手でハンドルを握り、右手にショットガンを構えている。
敵が柵に止められたとき、荷台のマシンガンがうなった。続けて俺達もショットガンを撃ち放つ。敵の先鋒はバタバタと血煙を上げて倒れていく。
弓矢が飛んできたが、俺達のずっと手前に落ちる。銃器の方が射程距離が長いので、アウトレンジ攻撃が可能なのだ。
俺達が時間を稼いでいる間に、味方は後退していった。
「よし、私達も撤退します!」
榎本さんの指示で、俺達はハイラックスに飛び乗った。バックのまま高速で走り、途中で前輪をスライドさせて方向転換。おとなしげな祐子さんなのだが、荒っぽい運転で荒れた道を突っ走っていった。




