第214話、王都奪還
オフロード車は王都に近づいた。
今にも雨が降りそうな空模様。進行方向から遠く喚声が聞こえてくる。
助手席の重松さんはハンドランチャーに榴弾をセットする。榎本さんは荷台に移ってマシンガンの安全装置を外した。
俺と野田は後部座席で固まっている。いよいよ始まるのだ。カマリア王都の奪還作戦が……。
ここから数十キロ離れているベルキアの砦にはジョンソン将軍が率いる一万人がキャンベル帝国軍を迎え撃つべく準備している。王都の兵は、そのほとんどが砦にかき集められているので、こちらの方は手薄なはず。三千人のレジスタンスだけでも王都奪還は可能だと信じよう。
王都に入る。
激しい戦闘を覚悟していたが、攻撃はされない。俺は軽機関銃のマガジンを握りしめて町並みを見るが、アマンダ軍の兵は見当たらなかった。
気抜けした気分で少し走ると、向こうでカマリア王国の軍服を着た人間が大きく手を振っている。それはギルバート王子だった。
王子の手前で車を停めると彼は笑顔を浮かべていた。
「ほとんどのアマンダ軍は駆逐しました。もう、ここには少しの敵しか残っていません」
王子の声は軽い。
「味方の犠牲はどのくらいですか」
重松さんが聞くと、王子は首を横に振った。
「ほとんどありません。アマンダ軍は見張りの兵だけが残っていて、戦闘員は砦に向かったようです」
「そうですか、それは良かった」
答える重松さんは少し残念そう。活躍の場がなくなったからだよな。
俺と野田は安心している。戦わずに目的を達成できれば、それに越したことはない。
そうか、ジョンソン将軍は帝国の援軍を最も重要視したのか。王都を放棄して砦に全戦力を集めるとは将軍も踏ん切りが良い。兵力を分散させておくよりも、防御しやすい砦に集中した方が有利だと判断したんだな。赤壁の戦いのときも彼は優秀だった。
援軍をけん制として砦に向かわせる作戦は当たったのだ。
「しかし……」
王子の顔が曇る。
「まだ王宮に敵兵が残って籠城しています。今はジョセフ将軍が包囲していますが、バリケードで入り口を塞いでいるので、攻めあぐねている状況です」
「そうですか」
重松さんの声のトーンが高くなる。ああ、この人は攻め込むつもりだな。
「よし、俺達が王宮に突入しよう」
やっぱり……。
それに対して榎本さんがうなずく。
「ここは一気に片を付けてしまいましょう。立てこもっている敵は、味方が助けに来ないことは知っているはず。精神的に追い詰められているので、ちょっと揺さぶれば落ちるでしょう」
彼が冷静に分析。今日、榎本さんは自衛隊の迷彩服を着ている。金ピカマントはバッグに入れているようだ。まあ、あれを着ると戦場で目立つから、弓矢の的になるよな。
王子を乗せて車を王宮に向かわせる。
そこは、大勢の兵士が取り囲んでいた。




