第210話、結婚?
「あ、はい……」
どう答えたものか……。
しばらく考えてみる。ジェームズ王とギルバート王子は、いつも通りのにこやかな顔で俺を見ているし、武闘派の重松さん達はニヤニヤして楽しんでいるよう。
隣の野田は目からレーザービームを放って俺を焼き殺そうとしている。香奈恵は腕組みをして冷ややかな視線をくれているし、アズベルは二個目のカレー飯にお湯を注いでいた。和田は窓の外をジッと見ている。……たぶん、何も考えていないのだろう。
肝心のビアンカ姫は、頬を上気させて俺を凝視していた。
「あの、その……、まあ姫も若いし、そんなに急がなくても良いかなと……思います」
棚上げというやつだ。俺は今までモラトリアムを続けてきた気がする。
王がため息をつく。姫はなぜか下を向いて残念そうに見えた。
「異世界では争いが続いているので、政略結婚とか個人の意向が無視されるのが当然のようになっているでしょう」
皆が俺を注目。
「でも、本当は個人が自分の道を決めるべきだと思うんですよ……。女性だったら、良い男を見つけて、しばらく付き合って、自分に合っているかなと思ったら結婚する。または、適当にグジャグジャと付き合って別れたり、焼けぼっくいに火が付いて、また付き合って結婚して、あー、やっぱりダメだと思って離婚して、他の相手を探して再婚して子供ができて、その養育でアタフタして……というようなことが人間の幸せなのかなと思ったりするんです」
皆は黙り込んで、居間の音源は消失していた。
「あー、ちょっと何を言いたいのか自分でも分かりなくなりましたが、要はビアンカ姫が自分で相手を探して結婚するのが良いと思うんですよ。それで不幸になったとしても自分の意思で決めたことなら自分で納得して心の底に納めることができる。だから、これから姫は多くの男と出会うでしょうから、その中から自分で決めれば良いと思います」
あー、俺は良いことを言ったかな。まあ、平和な日本なら当然のことだが。
「そうですか……」
王様が笑顔で言う。この人はいつも人当たりが良い。
「じゃあ、ビアンカがサトウ司令官を選んだら、それで良いわけですね」
「はい?」
俺と野田の黄色い声が居間に飛ぶ。
「はあ、そうですねえ……」
いくら恩人でも姫が三十四歳の小太りオヤジを好きになるとは思えないが。
「まあ、色恋沙汰は後にしよう」
重松さんの太い声。ニヤついているので、彼も楽しんでいたのか。
「日本にいれば、姫も王も何かされることもないんだから、まずは目先の戦いのことを考えるべきだ」
榎本さんと藤堂さんがうなずく。武闘派にとって惚れた腫れたよりも戦いの方が専業なのだ。




