第21話、お宝ゲットー
俺達は城の奥に案内された。
部屋の前には剣を帯びた二人の兵が立っている。
「王の使いで参りました。この部屋を開けてちょうだい」
キャサリン姫が命じると、門番はかしこまって分厚い扉を開けた。
中は暗くてよく見えない。ウォルターが部屋に入り、ロウソクに火を灯した。
「ああーっ!」
俺達三人は思わず声を上げる。
ロウソクの炎に照らされた大量の金貨や黄金の装飾品。
「どうぞ、中に」
「あ、はい、はい……」
姫にうながされて宝物庫の中に入った。
棚に置いてある木箱の中には宝石がきらめく。その一つを手に取ってみると片手では隠しきれない大きさのルビー。
「ああーん、すんごい……」
香奈恵が金貨を両手ですくい、砂時計のように落とすとジャラジャラという、耳に心地よい金属音が響いた。
「これは一体……?」
榎本さんは呆けたように口を開けている。
「これは貿易船によって得たトルディア王国の財産です。勇者様におきましては、ご自由にお使い下さい」
キャサリン姫は平然と言った。
「これを全部……あたし達が自由にしていいのかしら?」
興奮している香奈恵の目には「$」マークが浮かんでいるよう。
「はい、どうせ、帝国に敗北したならば全て強奪されてしまいますので」
なるほど……、国さえ無事ならば今までのように、いくらでも儲けることができるか。
とりあえず、二つの木箱に入れられるだけの金貨や宝石を入れ、軽自動車の荷室に積んでもらった。
自分のダイハツ・タントのリヤウィンドウ越しに、積んである木箱を見てニヤつく香奈恵。
「じゃあ、行こうか。香奈恵」
「え、あ、はい……」
俺が声を掛けても彼女は上の空。日本で金製品を換金している自分の姿を妄想しているのか。
「じゃあ、俺達はアマンダ共和国に向かいます。相手を何とか説得してきましょう」
「あ、あの、お待ち下さい」
車に向かうと姫様が俺を止めた。
「いつ帝国が攻めてくるかもしれません。榎本軍師様は城に残って迎撃の采配を取ってはいただけませんか」
「はい?」
榎本さんの声が裏返っている。
「私たちは心配なのです。ぜひ、お願いします」
そう言って頭を下げるキャサリン姫。後ろに控えていたウォルターも腰を曲げて頼んでいる。
アタフタして視線をこちらに向ける榎本さん。
「分かりましたわ。それでは、軍師殿は城に残って帝国を撃退して下さい」
香奈恵が笑顔で言う。コンビニでコーヒーを買ってきてちょうだいという声のトーン。
「あ、いや、でも、僕は……」
戸惑う榎本さんに近寄って耳打ちする香奈恵。
「いいから、いいから。後で迎えに来てあげるからさあ。」
「え、でも……」
「いざとなったら日本にトンズラすれば良いのよ。それに実際に兵隊を指揮してみたいと思わないの榎本さんは」
眉をひそめる彼。
「自分の軍事的才能をゲームだけに使うのはもったいないと思っていたんでしょ? 孔明みたいに扇子をヒラヒラさせてさあ、敵の大軍を翻弄したくないのぉ?」
悪魔の誘惑のような香奈恵のささやき。彼の鼻息が次第に荒くなった。大軍師スイッチが入ったかな。
「それとも、あなたの軍略はネットゲームでしか通用しない机上の空論なのかしら」
「やりますよ。きっと、この城を守って見せます」
キッパリと榎本さんが言い切った。その顔はりりしくて山本勘助か、または諸葛孔明かと言うべき。




