第208話、監禁
見張りの兵は同時にうなずき、同時に逃げ出した。
「賢明な判断だな」
関羽のような重松さんは扉を開く。
中に入ると、そこは薄暗い部屋で、ジェームズ王が中央のテーブルにいた。
「おお、ギルバート。それにサトウ殿も……」
俺を見て目を見開いている。
幽閉のために細い体が、さらに痩せ細ったように感じた。前に会ったときも王様のようなイメージはなかったが、普段着で暗い顔をしていると平凡な市民のよう。
「父上、ご無事でしたか……」
「ああ、死ぬほどのことはされていないさ」
王は、そう言って苦笑いのような笑みを浮かべた。
「とにかくだ!」
重松さんの野太い声が親子の間に割って入る。
「すぐにアマンダの兵がやってくる。皆で日本に転送だ」
彼は重そうな刀を鞘に入れて俺を見た。
「分かりました。では、ジェームズ王、こちらに寄って下さい」
皆が俺の周りに集まる。野田がスマホで日本の香奈恵に連絡していた。
俺の両手に四人がつかまり、なぜか和田はまたオンブの体勢。この人は学習能力がないのか、それとも俺に背負って欲しくて仕方がないのだろうか。今は注意している余裕がないので、すぐに転送するしかない。
「では、行きます」
俺は自分の新居を想像する。そこにビアンカ姫がいるので、恒例の実家の庭よりも手っ取り早いのだ。
慌ただしい足音が近づいてくる。アマンダ兵が集団でやってきたらしい。
薄暗い部屋がさらに暗くなり、俺達は黒いワープホールに飲み込まれた。
*
玄関先に転送。
人感センサー式のLED照明が玄関前の庭を照らしている。
そこには三人の女性が俺達を迎えるべく立っていた。
「お父様!」
白いブラウスを着たビアンカ姫がジェームズ王に抱きつく。
「おお! おお……ビアンカ……、息災だったか……」
娘を抱く王様。地位がどうであれ、親子の情愛は変わらない。
抱き合ったまま言葉もなく動かない二人。晩秋の夜、しぶとく残っていた秋の虫が四年ぶりの再会を果たした親子を祝福すべくメロディを奏でていた。
しばらくして、落ち着きを取り戻した王様が俺を見た。
「サトウ殿、あなたには感謝の言葉もない。私だけでなく娘まで取り戻していただいて、この礼は必ずします」
そう言って深く頭を下げるジェームス王。
「いや、そんな……俺は別に大したことはしていないですよ」
王様に頭を下げられると、居場所がないように落ち着かないぜ。活躍したのは重松さん達なんだよな。
「本当にサトウのおじさまには感謝ですわ」
そう言ってビアンカ姫が近づいてきた。
彼女が間近に迫ってくる。帝国の大軍が押し寄せてきたときのように俺の心拍数がレッドゾーンに達した。
「ありがとうございます」
割り込んで俺の両手を握ったのは白髪交じりの執事だった。
「旦那様をお救いいただいて、サトウ司令官閣下には何と申して良いのやら」
涙混じりに手を強く握っている。
ああ、それはいいんだけどさあ……ジイサンに手を握られてもなあ……。
俺は愛想笑いを浮かべるしかなかった。




