第206話、奪還作戦開始
俺と野田、藤堂さん、重松さん、和田、それに王子はランドクルーザーに乗り込んだ。
皆は迷彩服の下に防刃ベストを着ている。それを装着していても北風の中では暑苦しいと思わなくなった。
祐子さんは残って武器の調達をする役目。ビアンカ姫もカマリア王国に行くと言っていたのだが、危険なので日本で待機してもらうように説得した。
姫は父であるジェームズ王が心配なのだ。
王はカマリアの王宮に監禁されているので、その救出が最優先の任務。王都を奪還してもジェームズ王を人質にされたら先に進めない。
「サトウのおじさま。お父様をよろしくお願いします」
姫は窓から手を入れて、助手席に座っていた俺の両手を握った。彼女のブラウンの瞳が子猫のように俺を見つめている。
あー、白くて柔らかい手。十八歳の美少女に手を握られるなど、滅多にないこと。
「ええ、大丈夫ですよ。必ずジェームズ王は取り戻してきます」
そう言って、姫を安心させるように笑顔を作る。まあ、偉そうに約束しているが、活躍するのは重松さん達。
オフロード車の荷台には武器などを満載している。
俺はカマリア王国を思い浮かべた。
姫や香奈恵、それにアズベルの姿が黒くぼやけてくる。それは、やがて漆黒に塗りつぶされた。
*
車はカマリア王国に転送した。
近くにはジムニーが放置されていた。アマンダが裏切ったとき、野田と榎本さんが車でベルキア砦から帰るところを捕えられてしまったのだ。
ジムニーはエンスト状態でバッテリーが上がっていた。重松さんがランドクルーザーのバッテリーをつないで充電する。
しばらく、待ってからキーを回すとジムニーのエンジンはターボ特有の音を立てて動き出した。
ジムニーに藤堂さんが乗り込む。
「じゃあ、行ってくるぜ」
彼は、まるでコンビニに買い物に行くかのように気軽に言う。そして、車を発進させた。狭い道、すぐに軽自動は林の中に消えてしまった。
藤堂さんは、砦を迂回して帝国軍と合流する。その援軍を指揮して、俺達と連携してカマリア王国を取り戻すのだ。
俺達はオフロード車で王都に向かう。
ジョンソン将軍は俺達の報復を怖れて、ベルキアの砦に入って厳戒態勢だ。
重松さんの脅しが利いたのかな。しかし、自衛隊が一万人で攻撃してくるなど信用していないのと思うのだが、まあ念のためということか。ジョンソン将軍は優秀だから、あらゆる事態に対処できるように考えているんだろう。
夕闇が近づく森の中、車を王宮に向かわせる。
王都に近づいたが、敵兵の姿は見えない。やはり、主力はベルキアに集めているらしい。
車を茂みの中に隠し、俺達は王都に入った。
まず、カマリア軍の将軍であった、ジョセフと連絡を取ることにする。
ジョセフ将軍はカマリア軍の司令官で、ギルバート王子の友人でもあった。カマリア軍は解散させられていて、将軍は自宅にいるはず。
俺達は闇に紛れて、将軍の家に向かった。




