第201話、再会
「図々しにもほどがあるぞ、甘えるな! 兵を貸してやるだけでも、ありがたいと思うべきなのに姫を返せだと……。身の程を知れ」
オズワルド公爵は両方の拳を握りしめて俺を睨んでいる。
「しかし、締結している同盟は対等なはず。元々、人質を渡す意味がないと思うけど……」
俺はイスに座って冷静を努めた。この期に及んで同盟をひっくり返すわけにはいかない。
「対等だと……カマリアごときが帝国と対等に話ができると思っていたのか」
公爵は口をゆがめて言い放つ。
まあ、それが皆の本心なのだろうな。
「口を慎め、公爵」
皇帝がいさめた。
公爵は視線の行き場を失って会場のあちらこちらを見た後、俺に視線を突き刺す。
「第一、ビアンカ姫は俺の婚約者だ。それは皇帝陛下もお認めになっている。そうでしょう、陛下」
視線を皇帝に移動して確認する。
皇帝はしばらく黙り込んでから、口を開いた。
「確かに婚約者として認めても良いと言った。しかし、それはアマンダの攻略作戦が成功した後に、と言ったはずだ」
皇帝が公爵を見ると、オズワルド公爵は目をそらす。
「攻略作戦は惨敗だった。公爵に約束の履行を要求する権利はないと思うのだが?」
責めるような目つきだった。
前から不思議に思っていたのだが、この兄弟は他人行儀だな。皇帝としての立場上、公平な対応をしているのだろうが、ちょっと関係がよそよそしい。
「良かろう。ビアンカ姫はカマリア王国に返す」
「陛下!」
オズワルドが何かクレームを付けたいようだが、言い出せないでいる。
「姫も十四歳の時にやってきて四年も肩身の狭い思いをしている。もう、このへんで解放してやろうではないか」
皇帝は慈悲深い表情をしていた。
彼もビアンカ姫のことは気の毒に思っていたのだろうか。根は良い人なんだな。
王子が起立して深々と頭を下げる。
「皇帝陛下! お心遣い、感謝の言葉もございません」
王子は泣きそうな顔をしていた。本当に妹思いの兄さんなんだなあ。
言ってみて良かった。皇帝陛下には感謝、感謝だぜ。抱きしめて、ほっぺにチュッチュしてやりたい。
*
翌朝、賓客用の宿舎の前。
王子はソワソワとして落ち着かない。
しばらく待っていると、向こうから馬車がやってくる。
それは俺達の前に止まり、勢いよく馬車のドアが開いて少女が飛び出してきた。
白いロングドレスの彼女は王子の胸に駆け込む。
「ギルバート兄さん!」
王子の首に抱きついて、泣きそうな笑い顔の乙女。
「ビアンカ! 久しぶりだな、元気だったか」
王子は彼女を抱きしめてクルクルと回った。
ビアンカ姫の長い銀髪が朝日に照らされて、なめらかな軌跡を描く。目は茶色で背は俺くらいだろうか。鼻筋が通り、白い頬が感激で赤らんでいる。深窓の令嬢のような奥ゆかしい雰囲気。
肖像画で見たときは美少女という印象だったが、成長した姿を見ると語彙の少ない俺には美女という表現しかできない。
こんな美人を見たのは、トルディア王国のキャサリン姫以来だった。




