第20話、掎角の計
「アマンダ共和国はトルディア王国から見て帝国の後ろ側に存在します。つまり、共和国と同盟を結んで帝国を挟撃するわけです」
そうか、と言って将軍が腕組みをする。
「具体的な作戦としては、帝国がトルディア王国に進撃してきたら防戦のみで城に閉じこもり、一方では後方のアマンダ共和国に帝国を攻撃してもらいます。敵は主力のほとんどをこちらに当てているので、慌てて引き返していくでしょう」
「なるほど、そうしたら追撃するわけだな」
腕組みをしたまま少し興奮している将軍。
「いや、敵は大軍です。下手に戦うよりは、放っておくべきでしょう」
榎本さんは将軍の意見を簡単に却下する。
「帝国がこちらを攻撃したらアマンダ共和国から攻撃してもらい、帝国がアマンダ共和国に進んだらトルディア王国が帝国に進撃して牽制するのです。これは三国志の『掎角の計』を戦略的な規模に拡大したものです」
榎本さんの説明に将軍は口を曲げる。
「そうじゃないだろ! 敵が逃げていけば追撃するのは戦争の常識だ。これで終わりではなく次回もあるのだから少しでも敵の戦力を削いでおかなければ」
歴戦の将軍が言うと変な圧力がある。
「それは戦術的な意見でしょ! 今は戦略的な問題なのですよ。次回もあるのだからトルディア王国のような小国が生き延びるためには十分な慎重さが必要です」
榎本さんも負けていない。
「城の攻防戦は防御司令官である、このカスターが権限を持っている。勇者殿においては作戦案の提示だけに留めてもらいたい」
将軍と榎本さんがテーブルを挟んで睨み合う。どちらも譲歩しそうにもないな。
しょうがない、俺が二人を取りなすことにしよう。
「まあ、今は帝国の大軍をどうしようかという問題だよね」
二人が同時にこちらを向く。
「とにかく、アマンダ共和国との同盟には皆が賛成な訳だ」
俺が言うと全員がうなずく。
「共和国と手を組むなど本意ではないが、この際は仕方があるまい」
王様が同意した。これで決定ということだ。
「では、勇者殿にアマンダ共和国を説得願おうか」
「えっ」
王様の依頼に、俺は香奈恵と顔を見合わせ、次に榎本さんと目を合わせた。
「しかし、トルディア王国にも使節として有能な人がいるでしょう」
行っても話がまとまるかどうか……俺達は人付き合いが苦手なのだから。
「いや、同盟を提案したのは榎本軍師なのですから、そちらで行ってもらいたい」
将軍が突き放すように言った。さっきの対立が尾を引いているのか。
掲示板で、欲求不満な女子高生モンモンと名乗っている榎本さんが共和国に行って、弁舌さわやかに向こうの重鎮を納得させることができるわけがない。そして、それは俺達も同じ。
「分かりましたわ」
俺と榎本さんは香奈恵に首を向けた。彼女は平然と笑顔を浮かべている。
「分かりました。あたし達が共和国に行くことにしますわ」
「そうか、では、よろしく頼む」
満足そうな笑い顔の王様。
「しかし、共和国を説得するには手数料が必要ですわ」
香奈恵の目が輝き出す。
うむ、と言って王様が口を結んだ。




