第2話、悪魔娘
ああ、これが無重力というものか。
落下する感覚、一気に酔いが消える。
逆さまになっている俺にガッシリとしがみついている野田と香奈恵。
二人には悪いことをしたな……。
これで俺の人生は終わりなのか。急激に迫ってくる岩場に俺は目をつむった。
すぐにやってくるであろう衝撃に体をこわばらせていたが、いつまで経っても変化がない。
ゆっくりと目を開けると、小学生低学年と思われる可愛い少女が頭を下にして浮かんでいた。違う、俺が逆なのか。視界の上に岩場があって波が打ち寄せている。
三人は落ちていく状態のままで静止しているのだ。
「全く、しょうがないオヤジだわよね」
丸くて大きい目は青い瞳だった。ピンクのエプロンドレス風、フリルがたくさん付いているワンピース。少女とは逆向きの態勢なので、ついスカートの中に目が行く。
「ホントに、ダメ中年トリオは面白いだわよ」
そう言って黒髪のツインテールを右手ではじき、背中に飛ばす。
「あんたは誰だ……」
この少女は普通ではない。それとも俺は死んでしまったのか。
「私は悪魔のコパル。人間を観察するのが趣味だわよ。特にダメオヤジを見るのが大好物」
クスリと笑う。小さめの唇が少しつり上がってキュートな顔になった。
「楽しませてくれたお礼に、願いを一つ聞いてやるだわよ」
片手で宙を回すと手にはバトンが握られていた。先端にはハート型のパーツ。
混乱して良く考えることができない。
「おい、野田。どうすればいいかな」
しかし、彼は固まったまま動かない。俺に抱きついている野田の時間は止まっているのか? それは香奈恵も同じだった。
どうすれば良いか。これは夢を見ているのかな。
とにかく、何かを願ってみるか……。
「そうだなあ……俺は王様になりたい」
コパルは口を少しゆがめて困ったような顔になる。
「大金持ちとかじゃダメなの? そんな大きな願いだとプログラムが大変なのよねえ」
バトンを小さく回している。
「そうねえ、あなたには異世界に行く能力を与えるだわよ。その能力を使って、後は自分で何とかしなさい」
コパルはバトンで大きな円を描いた。先端のハートが光り出す。
その直後、視界がグニャリと曲がり、世界が暗闇に閉ざされる。俺の最後の記憶は幼女のパンツだった。




