第198話、情報
皇帝との謁見会議は終わり、俺達は客間に通された。
「上手くいったぜー!」
藤堂さんがドーンと安楽イスに腰を落とす。
「お腹空いたですぅ」
黒い神官の衣装を着ているアズベルがソファに飛び込んだ。ドレスのような服の裾がめくれて白い太股があらわになった。
「まあ、とにかく会談は終わりましたね……」
イスに座る王子も疲れているよう。
俺は大理石のテーブルを挟んで対面に座った。
客間は立派だった。
大きくて磨き上げられたテーブルが中央に置かれ、高そうな革製のソファや安楽イス。端には仮眠用のベッドもある。
棚には果物やお菓子、ティーカップなどが並んでいた。ワインと思われるボトルもそろえてある。
「もっと、いかつい顔をした皇帝だと思っていたが、けっこう可愛いニイチャンだったな」
藤堂さんが天井を眺めてポツリと言う。
「でも、かなり頭の良い、したたかなキャプテン……じゃなくて、皇帝陛下でしたよね」
俺も人物批評する。
「皇帝は政治を司り、軍事は弟のオズワルド公爵に委ねています。公爵と違って皇帝は人柄が良く、帝国民からも慕われています」
王子が説明してくれた。
「確かに、陛下は将軍という感じじゃないな。どちらかというと政治家だな」
藤堂さんがこちらを向いている。
「優秀な将軍だったら、マシンガンなどの武器よりも通信機や偵察用のドローンなどの情報機器を欲しがるはずだ。戦争においては情報が重要だからな」
「それは、そうですね」
俺は藤堂さんに相づちを打つ。
今までの戦闘経験からいって、情報の重要性は熟知している。敵が大軍であっても、いつどこに進軍してくるか、率いる将軍は有能かなどが分かれば対応は容易なのだ。
「しかし、日本を占領するとかビックリだったな」
と、藤堂さんは苦笑い。
「でも、あの皇帝が言うと、なぜか可能なような気がしてきましたよ」
「ふーん……」
俺の言葉に鼻息でこたえる藤堂さん。
今の日本人は責任を他人に押しつけたいのじゃないだろうか。国内とか外交の問題を自分で考えずに誰かに背負ってもらって、後は目先の楽しみで生活をしていきたいと思っている。そんなときに全ての問題を解決してくれる独裁者が現れたならば、喜んで自由を手放すような気がしないでもない……。
「まあ、佐藤さんが日本の王様になったら、俺を自衛隊の幹部にしてくれや」
藤堂さんが笑って親指を立てていた。
戦争において、情報は大事。
「銀河英雄伝説」で、ヤン艦隊がイゼルローンを攻略するとき、その情報が帝国に流れていたら、待ち伏せされてローゼンリッターもヤン艦隊も壊滅していたでしょう。