第196話、世界征服
思いもかけない問いかけだった。
適当にお茶を濁してごまかすような雰囲気ではない。嘘をついたらマズいような気がする。
藤堂さんが先に口を開く。
「そうですねえ……俺は、戦うのが趣味なのかな」
周りの皆が失笑する。
あーあ、藤堂さんは本音を言っちゃった。
「趣味で戦うというのか、ニホン人は面白いな」
皇帝は爽やかな笑顔。藤堂さんの答えが気に入ったらしい。彼はこちらを向いた。今度は俺の番か……。
「えーと……俺は……お金のためかな」
帝国の面々は大笑い。それは俺をバカにしている笑いだった。皇帝も軽やかな声で笑っている。
「アハハハハ……、お金儲けが理由とは正直な男だ。サトウ司令官、お前のことは気に入ったぞ」
皇帝だけはバカにしていないようだ。
「あ、はい……、ありがとうございます」
礼を言う場面かな、ここは……。
「正義のためとか主義主張のためとか、体裁の良い理由よりは、自分や恋人、家族のために戦うという方が信用できる。それが民衆にとって自然なことだからな」
この皇帝は柔軟性があるな。
「皇帝陛下は、どうして戦うんですか」
対面のオズワルドが、キッと俺を睨む。軽々しく皇帝に質問してはいけなかったのか。
皇帝は俺をしばらく見つめてから、顔を上げて遠くを見るような視線になった。
「私は、この大陸を統一して大陸王になる」
はっきりとした物言いだった。
「今は大陸の各国で勝手に統治してる状況だ。これを全て統一するのだ」
なんかカッコいいな。少年ジャンプの主人公みたい。
「大陸を統合すれば効率的な政治を行えるし、情報や技術、産物を共有化して大陸全体の文化を発展させることができるだろう」
この人は見かけによらず気宇が大きい。
「最終的に全ての国民に平和と安心を与えることができる。そのために多大な犠牲を払っても私は戦うのだ」
白い頬が少し上気している。皇帝は本音で言っているのが分かった。
帝国の将軍をはじめ参謀達が拍手をしていた。同意が半分、追従が半分といったところか。
「でも、全体を統一する必要があるのかな……」
俺の言葉は会場に冷水をばらまいたよう。皆が黙り込む。
催促するように皇帝が俺を見ていた。
「あ、いや……、別に一つの国家にまとめなくても、それぞれ人には主義主張や考え方、信じる宗教や個性があるんだから、それはそのままで良いのじゃないのかなあ」
会場は無音になった。皇帝の前で方針に逆らうようなことを言うのはタブーなのだろう。不敬というやつか。
「世界征服する必要はなくて、国際連盟というような総合的な議会を作り、大陸的な問題は各国の代表が討議して対応すればいいんですよ」
隣の藤堂さんが俺の横腹をつつく。俺は言いたいことを言いすぎたようで、王子も険しい顔で睨んでいた。
対面のオズワルドは怒りを通り越して真っ青になっている。
ヤバイ、いつも俺はどうして言葉で失敗するのだろう。
皇帝は黙って上のシャンデリアを見つめていた。
「うん……サトウ司令官の言うことも正しいとは思うが、そういった総合会議のシステムを作っても、結局は参加している大国のエゴに振り回されるんじゃないかな……」
そう言う皇帝の視線は明日を見ているよう。
ああ、良かった。レオナルド皇帝は器量が大きい。俺が勝手なことを言っても深い懐で受け止めてくれたらしい。
「サトウ司令官」
皇帝が子供のようにいたずらっぽい目で問いかけてきた。
「はい」
「私と組んでニホンを占領してみないか」
「ハイ?」
俺の返事は裏返って、すっとんきょうな声になった。