第195話、要求
「もう良い!」
皇帝の一喝が部屋に響く。
「過去のことに囚われても仕方がない。それよりも未来が有利になるように考えるべきだ」
兄である皇帝の言葉にオズワルドが黙り込む。
「カマリア王国に帝国軍を派兵しても良い」
そう言う皇帝は、なぜか俺の方を向いている。
「はっ」
王子が小さく頭を下げた。
「ただし条件がある。ニホン人が使っている武器を大量に頂こうか……」
俺と藤堂さんは顔を見合わせた。やはり、そう来たか。
「マシンガンを欲しいということですね……」
低い声で藤堂さんが確認。
「ましんがんというのか、あの武器は。そうだ、そのましんがんを一万くらいもらいたい」
テニスサークルの爽やかキャプテンのようなニイチャンでも、したたかに富国強兵を願っているのか。
「武器を差し上げるのは、やぶさかではありません。しかし、一万丁は無理です。せいぜい三百丁が限度です」
「そうなのか……」
いぶかしげに俺の表情をうかがっている。本当はもっと転送できるのだが、あまり多くの武器を渡すと、こちらが銃撃されるという恐れがあるのだ。
「日本人が使っている武器は、日本から運んでいる物です。それには重量制限があって大量に転送できるというものではないのですよ」
「そうなのか……」
なんとなく皇帝は納得したよう。まあ、転送について何も知らないのだから承諾するしかないのだろう。
「ただし、弾丸は大量に用意しましょう」
それを聞いて皇帝は小さくうなずき、そして言った。
「それから、カマリア王国とニホン人は同盟に基づき、最低でも一年に一度は帝国の戦闘に参戦してもらう」
俺は横目で藤堂さんを見る。向こうも俺を横目で見ていた。
「同盟はそういった約束になっていたはずだ。そうだろう、王子」
王子はチラッと俺を見てから首を縦に振った。
そう来たか……。日本人の戦力を……榎本さんの才能を帝国の戦略に組み込もうというのか。このニイチャンは見かけによらず腹黒いらしい。でも、それくらいでないと大国の皇帝はやっていけないのかも……。
同盟を突きつけて派兵を願い出たのだから、同盟の条約を無視するわけにはいかない。今まで帝国を親の敵のようにして戦ってきたのだが、今度は仲良く肩を並べて戦争をしなければならないのか……結果的に俺達は節操がないというべきなのかな。
皇帝は満足そうに爽やかな笑みを浮かべていた。
「話は変わるが、ニホン人に聞きたいと思っていたことがある」
皇帝の声のトーンが変わっていた。まるで、好奇心丸出しの子供のよう。
「なぜニホン人は戦争をするのだ?」
突然の質問に、また俺と藤堂さんは顔を見合わせた。




