第194話、紛糾
「こいつらニホン人には大勢の帝国兵士が殺された。人食い軍師エノモトによって数万もの兵隊が犠牲になったのだ!」
オズワルド公爵の鼻息は荒い。
「しかし、それは帝国が侵略してきたからでしょう」
藤堂さんが公爵を見据えた。
「我々日本人は依頼されて国を守る手伝いをしただけです。戦争なのだから、そこに流血があるのは仕方がない、襲われたら身を守るのは当然のこと。対等……いや、不利な状況にあって必死に防御しただけです」
藤堂さんは淡々と答える。
返答に困ったようで、公爵は小さく舌打ちした。
「しかし、なんだ……ニホン人というモノは尻軽だな。トルディア王国の味方をしたと思ったら次はアマンダに付く、そこを追い出されたら今度はカマリアか……。対価さえもらえれば何でもやるんだな。魔界の者は矜持がないらしい」
オズワルドは意地の悪い笑みを浮かべている。
「たぶん、ご存じと思いますが、トルディアとアマンダからは命を狙われたので逃げ出しただけ、私達のせいではありません。日本人は常に誠意を持って尽くしてきました」
藤堂さんの冷静な態度は変わらないので、公爵はフンと鼻を鳴らして席に着いた。
「それに……」
探るような視線をオズワルドに送る。
「アマンダから排除されたのは帝国の差し金……という噂がありますが」
「知らんな!」
公爵はそっぽを向く。
ああ、やっぱり帝国の謀略だったか……。
「それを言うなら、カマリア王国はニホン人と密約を交したという噂があるのだが……」
そう言って公爵が身を乗り出す。
ヤバいな、知られていたか……。
「何のことか分かりません」
王子が白を切る。実直な彼にとって嘘をつくのは苦手なことだろう。
「ニホン人と示し合わせて芝居をした……戦争ごっこをやって我ら帝国軍をたばかったのではないのか!」
「知りません」
「調べれば分かることだぞ」
ヤバいな、事実が判明すれば全てがダメになる。神官のアズベルがいるから、まさか殺されるということはないだろうが。
「カマリア王国は知らぬことです。及ばずながら負けてしまいましたが、私達は帝国のために必死に戦った。もし、我が国がキャンベル帝国を裏切ったというなら、私と人質になっているビアンカを殺しても構いません」
王子は突っ張っている。妹を大切に思っている王子なのだから、ビアンカ姫を殺しても良いと、口に出すのも苦しいことなのだろうが。
「い、いや……そこまでは言っていない……」
困った顔の公爵。
そうか、こいつはビアンカ姫を自分の物にしようと思っているから、処刑まで話が行ってしまうと困るんだな。