第192話、王宮
くもり空。少し強い秋風が草原を波立たせる。
藤堂さんが運転するトヨタ・ランドクルーザーは、地平線に向かって真っ直ぐに伸びている道を走っていく。
ここはキャンベル帝国とカマリア王国のほぼ中間地点。
以前、キャンベル帝国を車で縦断したことがあるので、帝都に近い場所まで車ごと転送し、直線的に皇帝のいる帝都を目指している。
俺達はギルバート王子を連れて帝国に行き、皇帝に援軍を申し込むのだ。言っても話を聞いてくれる保証はないし、悪ければ殺されるということも考えられる。だがしかし、今のカマリア王国の状況を打開するには他に方法はない。
車のフロントにカマリア王国の旗はなびかせて、オフロード車は荒れた道を揺れながら進んでいく。
「お腹空いたですぅ」
アズベルの口癖のようなクレーム。
振り返って後部座席を見る。この神官の少女は、どんなときでも腹は減るんだなあ。
帝都に近づくと集落が点在している。どの家も鉄骨とレンガを組み合わせた贅沢な住宅だ。キャンベル帝国は豊かな国家らしい。
やがて、高い塀が見えてきた。皇帝の居城がある城塞都市。
レンガで組んでいる城壁の手前には堀が長く走っている。水をたたえた深そうな堀は、端を石造りで固められていた。
その手前に門があり、ランドクルーザーは警備兵に停止させられた。
数人の兵士は顔がゆがむくらいに、不審な物を見る表情で車を取り囲んでいる。カマリア王国の国旗をこれ見よがしに立てているのだが、あまり役に立っていないよう。
「私はカマリア王国の第一王子、ギルバートです。皇帝陛下にお目通り願いたい」
王子が伝えると、警備兵は困った顔で詰め所に戻り、しばらくして戻ってきた。
「ああ、あの……、報告をしに行ったので、しばらく待合室で待機願いたい」
兵は動揺している。そうだよな……。初めて見る自動車に戸惑ってしまうよな。
門の隣にある小屋に入って、しばらく待つことにする。
外に停めてあるオフロード車の周りには、たくさんの警備兵が群がっていた。
一時間ほど待って、夕暮れが迫る頃にやっと兵が戻ってきた。
「皇帝陛下はお会いになるそうです」
俺達は、案内の兵を車で追って城塞都市の中に入った。
都市の中は柵で区切られていて、城壁の上には弩弓がたくさん備え付けられていた。
槍を持って巡回している警備兵は、立ちすくんで俺達を奇異な目で見ている。ランドクルーザーを魔法の馬車だとでも思っているのだろうか。
都市の中央に王宮がドーンと建っていた。
四階建てビルくらいの高さかな。東京ドームより少し小さいくらいの規模。建築技術が未熟な異世界で、良くこれほどの建築物を作ったものだ。
エントランスから離れた場所に車を停め、俺達は王宮の中に入る。
豪華な玄関は広いロビーにつながっている。
階段を上って二階に上がると、待合室に案内された。
ボディチェックを受けて、またしばらく待たされる。
「こちらにどうぞ」
背広のような服を着た文官らしき老人が部屋に入ってきて俺達を呼ぶ。
俺達は別の部屋に通された。