第19話、合従連衡
「トルディア王国のように帝国と比べて小さな国は、合従連衡によって国体を維持していくことになるでしょう」
榎本さんが張りのある声で言う。参謀スイッチが入っちゃったか。
「がっしょうれんこう……とは?」
姫様の後ろに控えていたウォルターが口を挟む。
はい、と言って榎本さんが目の前のコップの水を飲んだ。
「そもそも戦国時代に小国が生き残るには、大国に服従するか小国が集まって同盟を組み、大国に立ち向かうか、という方法しかありません」
ウォルターがうなずく。
「だから、この現状から言って、トルディア王国が帝国と戦う前に条件降伏するか、それとも他の国と同盟を結んで共闘するしかないんです」
「帝国に……あの帝国に、かしずくなど思いもよらんことだ!」
王が持っていた杖で床を叩く。広くて静かな会議室に、大理石の打撃音が響いた。
キャサリン姫と剣士のウォルターが深くうなずく。
「栄光あるトルディア王国が横暴な帝国の従者になるなど王国始まって以来の屈辱である」
憮然とした王様の声。
「……ならば戦うしかありませんね」
「それしかないだろう……」
カスター将軍が押し殺したような小さな声で同意。
「聞いたところでは、大陸の向こう側にアマンダ共和国という民主国家があるようですね」
「ああ、そのとおりだ。トルディア王国よりも小さいが天然の要害に守られている」
そう言って将軍が榎本さんに視線を向けた。
「その国と同盟を結びましょう」
こともなげに言う榎本さん。しかし、他のメンバーは顔を曇らせる。
「しかしだな……」
将軍が困ったような目で榎本さんを見た。
「アマンダ共和国は大陸で唯一の共和制国家で、トルディア王国のような君主国家を嫌っているのだよ」
そうか、共和国には主権在民のプライドがあるのだろう。民主主義こそ先進的な国家体制だという自負があり、王政などはバカにする対象なのかもしれない。声のトーンには彼もアマンダ共和国を嫌っている空気が含まれていた。
「しかし、それしか今は方法がありません!」
榎本さんがドンとテーブルを叩く。大きくて重そうなテーブルは鈍い音しか立てない。
「君主制だろうが共和制だろうが、それは人間がより良く生きていくための方便です。国が生き残るかどうかの瀬戸際なら、どうでもいいことなのですよ」
毅然としている榎本さん。中学生のような幼い顔をした子供が言うと、なぜか説得力が増す。
以前はアマンダ共和国も専制国家だったらしい。
しかし、革命により、国民主権の共和国になったのだ。そして、国王は広場で公開処刑された。
それがあって、王制を脅かす共和制は王様にとっては忌み嫌うものでしかない。