第189話、貴賓室
「佐藤さんも王様になる宣言をしてから、少しは男らしくなったじゃないか」
そう言ってにこやかに笑うヒゲ面の重松さん。「少しは」という単語に、ちょっと引っかかるが。
「虎穴に入らずんば虎児を得ず、ですよ」
そうだ、トンネルが崩れそうでもプラチナが手に入るのなら、ビクビクしながらでも掘り進むべき。
*
俺と野田、それに藤堂さんはカマリア王国の王宮に転送した。
とっくに日が沈んで暗くなった貴賓室。ギルバート王子と連絡を取るために、三人は大きなテーブルの下に座り込んで機会を待っていた。
高い窓からは秋の星が見える。廊下からは物音もしない。
藤堂さんがスマホで日本の重松さんと連絡を取っていた。
野田が立ち上がりライトで照らして部屋を物色する。そして、ふと一つの絵の前で立ち止まった。
「おい、佐藤。これがビアンカ姫か?」
立ち上がって絵の所まで歩いて行く。
「ああ、これがビアンカ嬢だ。姫が十四歳の時の肖像画で、四年前に描かれた物だから今は十八歳くらいかな」
ほうっと言って、野田が絵に見入っている。白いドレス姿の銀髪美少女は野田のド直球ストライクゾーンだろう。
「トルディア王国のキャサリン姫も美人だったが、ビアンカ姫はそれに勝るとも劣らない。今はけっこうな美人さんになっているだろうな……」
独り言のようにつぶやいている野田に、俺は小さくうなずいた。
「この娘を犠牲にしたくないよな……」
俺が小さく言うと、野田が大きく肯定する。
「よし、そろそろ行くか」
ドアに耳を付けて外の様子をうかがっていた藤堂さんが立ち上がる。
重そうなドアを開けて部屋の外に出る藤堂さんの後に俺達も続く。
腰をかがめ、暗い廊下を早歩きで進む。目的地は王族専用の風呂場だ。
廊下の角で止まり、小さな鏡を使って向こうに兵士がいないことを確認する藤堂さん。さすが元自衛隊の情報担当。彼は探偵としての尾行技術も一流だった。
豪華な両開き扉の前に着いた。
辺りを見回してから、ゆっくりとドアを開けて中に入る探偵事務所の所長。俺と野田も中に入って扉を閉めた。
そこは脱衣所だった。
小国といえども、王族の風呂場は豪華だった。
脱衣所は広く、引き戸の向こうから湯気の熱気が感じられる。
しばらく待っていると、ドアの向こうから物音が聞こえ、誰かが入ってきた。
それはギルバート王子だった。さすがに監視兵も風呂場には入ってこない。
ローソクの暗い光に照らされた脱衣所。棚の影に隠れていた俺達は、ゆっくりと明かりの方に出た。
「王子……ギルバート王子」
藤堂さんが、ささやきかける。
王子は、驚いて振り返った。
「ああ、トウドウさんでしたか。サトウさんも……」
前と変わらない人なつっこい感じだが、少し陰りがある表情の王子。アマンダ共和国軍に占領されて嫌な思いをしているに違いない。




