第188話、謀略
「しかし、言い訳はできますよね」
榎本さんは冷静な口調。
「私達がアマンダから追い出されたことを帝国は知っているでしょう。ミッキー老人とかモルトン議員とか、スパイから常に情報は流れているはず」
野田がうなずく。
「アマンダから裏切られたのでカマリア王国と手を組んだ……別に不思議ではありませんよね。確かに我々はトルディア王国と共に戦い、その次にアマンダ共和国軍を指揮し、それがダメになったらカマリア王国と連携する、となると日本人は節操がないなあという評価になるでしょうが、それぞれにちゃんとした理由があり、それは帝国も知っているはずです」
「そうだよな……」
そう言って野田が口をつぐむ。
「なんとかギルバート王子を連れて帝国に行き、銃器の提供を材料にして同盟を求めれば皇帝も首を横に振ることはないでしょう」
「それに……」
俺が思いつきを口に出す。
「もしかしたら俺達が殺されそうになったのは、帝国の差し金かもしれないよね」
ハッとした顔で皆が俺を見る。
「まともに榎本さんと戦ったら勝てないと分かったので、からめ手から攻めてきたのかも……」
「確かに!」
榎本さんが大きな声を出した。
「佐藤さんの言うとおりだと思います。戦闘で勝てなければ謀略で攻めるというのは戦争の常識。兵法では戦闘よりも謀略を優先することを勧めています。私が帝国の立場だったら、間違いなくアマンダと日本組を引き離す工作をするでしょう」
榎本さんは俺の顔をジッと見ている。この人は興味のある対象を注目する癖があるのかな。
「何だよ、じゃあ俺達がギロチンで殺されそうになったのは帝国がミッキーとかに金貨をちらつかせて買収したのかよ!」
野田が不満をあらわにする。
「そういうことですね」
「あのジジイ、自分のお金儲けのために俺達を裏切ったのか! チクショウ、次に会ったらワニのプールに吊してやる。リアルなワニワニパニックで楽しませてやるぜ」
野田の目は本気だな。
「まあ、とにかくだ……」
藤堂さんが話を軌道修正する。
「今の課題は、帝国と同盟を結ぶことだ。昨日の友が今日の敵に回ったら、今日の敵は明日の仲良しにしなければならない」
ヒゲ面の重松さんがコクンと小さくうなずき、藤堂さんが続ける。
「帝国の最終目標はアマンダ共和国の占領とかトルディア王国の攻略とかじゃなくて、大陸全土の征服だろう」
「帝国の戦争方針から言って、そうでしょうね」
榎本さんが同意した。
「ならば、カマリア王国との密約とかはどうでも良くて、強力な武器を手に入れることを喜ぶだろうさ。帝国との交渉は上手くいくと思うぜ」
「うーん……でもさあ」
野田が首をかしげる。
「俺達は何万人もの帝国軍の兵士を殺しているんだぜ。皇帝は冷静に判断できても部下を殺された将軍が感情で激発するかもしれないだろう」
それを聞いて藤堂さんが「うーん」と言って口を閉じる。
「でも、やってみよう」
俺が言った。
「どちらにしろ危険はあるでしょう。でも、それしか方法がないのなら帝国に行きますよ」
ほうっと、感心したように重松さんが俺を見る。今まで、お金儲けしか取り柄のないダメオヤジだと見ていたんだろうなあ。




