第187話、提供
皆が何も言わないので、俺が話を続ける。
「カマリアの食料や武器はアマンダ共和国軍が接収しているので長期戦になると不利だと思います」
俺を恋人のように見つめている榎本軍師がコクンと小さくうなずく。
「それに占領軍を統率しているジョンソン連隊長……いや、今は将軍だったかな……。その彼は優秀です。赤壁の戦いのときも帝国軍に対して常に冷静に対処していました。クーデターを暴発させたとしても、すぐに落ち着きを取り戻して対処するでしょう」
部屋にため息が充満する。俺の意見が認められているらしい。
「有効な方法としては、ジョンソン将軍を俺の転送で誘拐するか殺害するかですが、抜け目のない彼は警備兵を二十四時間待機させて、俺が現れた途端に斬り殺すように命令していると思います」
「確かにそうですね……」
榎本軍師は同意した。彼は、自分の意見に反することでも容易に受け入れることができる、度量の大きい人間なんだ。
「クーデター作戦では無理があるので、それで帝国を頼ろうということですね」
「その通りです」
俺はうなずいた。
「でもよう……佐藤。今まで俺達は帝国と戦って大勢の兵士を殺してきたんだぜ。相手が日本人を許すとは思えないよな」
野田が困ったように反論。
「俺達が帝国に頼むんじゃなく、カマリア王国として正式に援軍を申し込むのさ。帝国とカマリアは同盟を結んでいるので、カマリア王国がアマンダに占領されたら、帝国はアマンダと戦ってカマリア王国を開放する義務があるだろう」
俺が言うと、重松さんが首を傾ける。
「佐藤さん。狙いは良いと思うが、カマリア王国は元々、帝国の属国という立場だ。同盟は一応の対等だが帝国はカマリア王国を格下と思っている。自分たちの利益にならなければ助けに来ないと思うがなあ……」
重松さんに言われて言葉に詰まる。帝国に頼るのは無理があったか……。
「メリットがあれば帝国も耳を貸すと思います」
榎本さんが言った。
「例えば、ライフルなどを提供すると申し出れば、帝国は喜んで協力してくれるはずです」
榎本さんの提案に重松さんが首を振る。
「そりゃダメだぜ。銃器を渡したら、その途端に銃口が俺達を向くという恐れがある。危険が大きいし、銃を持っているというアドバンテージは日本人が持っておくべきだ」
銃の威力を十分に知っている重松さんの意見。
「弾丸がなければライフルはただの棍棒と化してしまいます。ライフルを渡して、その力を存分に理解したら、弾丸を切に求めるはず。この異世界には弾丸を製作する技術力はないので、佐藤さんが転送で持ってくる弾丸だけが頼りになるでしょう」
淡々と説明する榎本さん。
「弾丸を必要とする限り、日本人を敵に回すことはない……ということか。それに銃器もメンテナンスが必要な消耗品だ。深刻に考えるべき必要はないか……」
「そういうことです」
榎本さんは重松さんに向けて首を縦に振った。
「でも、それだと日本人がカマリアと組んだということが帝国に分かってしまうんじゃないかなあ」
野田が口を挟む。
「もし、カマリア王国との密約がバレたら人質のビアンカ姫が殺されてしまうよ」
そうだよな……野田の言うとおり、安易に行動すると悲惨な結果になるかも。




