第186話、固まる
「私の考えとしては……」
そう言って榎本さんが大きく深呼吸した。
「カマリアのギルバート王子と連絡を取ってクーデターを起こしてもらうしかないでしょう」
自分で言って、ウンウンとうなずいている榎本さん。
「それと呼応して私達も独自に攻撃を開始して、駐留しているアマンダ共和国軍を王都から追い出すのです」
榎本さんの作戦に、「それしかないか……」と言ってから口を結ぶ重松さん。
「その後に、丘に構築してある砦を前線基地として武器を運び込み、共和国軍を迎え撃ちます」
説明した後に、また大きく深呼吸した。
榎本さんの作戦案は理屈は通っているのだが、どうもしっくりこないな。
「王子が協力してくれるでしょうか」
俺が聞くと、榎本さんが小さくうなずいた。
「カマリアはアマンダ共和国から搾取されています。銀や農産物を取り上げただけでなく、占領軍の駐留費も払わせています。カマリアの国民の不満は、そのうち怒りに変わるでしょう。きっと協力してくれるはずです」
「しかし、クーデターを起こすといっても大勢の兵士が集まりますか? 国の規模からして三千人が集まれば上等という気がしますが」
前の戦いでは徴兵しても一万人弱しか集まらなかった。自発的に戦いに参加しようとする者は五千人以下になるんじゃないのか。
榎本さんは俺の顔を見たまま黙り込む。しばらく言葉に迷っているようで、しばらくしてから口を開いた。
「佐藤さんの言うとおりだと思います。ジョンソン連隊長がまとめている占領軍は一万人。敵の虚を突いたとしても、こちらの犠牲は少なくないでしょう……」
そうか、それで口が重かったのか。
「今度は苦しい戦いになりますが、他に思いつきません。犠牲を覚悟で戦うしかないでしょう……」
榎本さんが言うのだから間違いないだろう。皆がそう思って居間は沈黙した。
本当に別の方法がないのだろうか。俺は可能か不可能かは別にして、思いつくだけの案を考えた。
「前線基地に敵が攻めてきたら、防戦一方で堅く守り、後は佐藤さんの転送能力でゲリラ攻撃をしてもらい敵を疲弊させて撤退に追い込みます」
そう言って榎本さんは俺を見るが、まだ考えていたので視線を合わせない。
「佐藤司令官は日本組のキーマンなので、あまり危険なことをさせたくないのですが、この際は仕方がありません……。よろしいですか、佐藤さん」
榎本さんに指名されて、俺はボンヤリとした頭で顔を上げる。
「他に方法がないんでしょうかねえ……」
「それでは、佐藤さんには何か提案がありますか」
小さく、うなってから思いつきを口に出した。
「帝国に援軍を出してもらったらどうでしょう」
そう言ったら、スイッチを切ったように皆が無言になって俺を見た。
全員が俺を見たまま固形物に変化したよう。榎本さんは宇宙人を見るような目で俺を見ている。
そんなに注目するなよな。そういったことに俺は慣れていないんだからさあ。