第184話、発見
「それは、サトウさんが決めること、サトウさんにしか決めることができないことなのですよ」
まともなことを言ったアズベルを見たのは初めてかも……。皆は彼女に注目する。
「転送できるのはサトウさんだけなのですから、あなたが嫌だと言えばそれっきり。私にも他の人にも、どうすることもできないのですよ」
言い終わるとアズベルは、またポテトチップスを食べ始めた。パリパリという音が静かになった居間に響き、それはなぜか厳粛な感じがした。
そうだよな……。俺がキーマンなんだから、俺が自分の意思で決断するべきこと。
野田には悪いが、前から俺は決めていた。
「俺は異世界に行きたいと思う」
重松さん達は、ほうっと息を吐き。野田は、ため息をついて横を向く。
長生きすることが人生の目的ではない。自分の人生の意味を見つけること、それを実行することが重要なのだと俺は思う。
「やられっぱなしでガマンできるかよ。アマンダのミッキーと、その仲間達に仕返ししてやらないと俺は気が済まない。そうだろう、野田」
彼はこちらを向く。ミッキーと、その仲間達というフレーズは、なんかホノボノしているな。
俺はさらに力説する。
「俺達を適当におちょくりやがって、ガツンといわせてやらなきゃ男じゃないぜ。なめられてバカにされたままでいいのかよ」
野田は下を向いて、フフと笑った。俺に同感なのだろう。
もう少し言いたいことがある。
「今まで俺は周りに流されてきた。学校では先生の命令を聞いて、皆で勉強、集団行動だ。他の生徒と違うことをすると怒られる。会社では上司の命令を聞いて、逆らうと嫌な目にあう。俺の人生の舵取りをしてきたのは、常に他人だった」
野田は深くうなずく。
「異世界に行っても都合の良いように利用されて、要らなくなったらポイだ。俺の人生は他人に踏みつけられ他人の養分にされてきたのさ。……俺は自分の道を自分の足で、自分の意思で歩きたい。他人から無理に押し戻されたら、自分の力で抵抗するんだ。その力が俺は欲しい。上司にバカにされ見下げられて……これで何もしなかったら、ただのダメオヤジじゃないか。俺をないがしろにしたやつらを見返してやる!」
俺の言葉を皆が真剣に聞いている。俺の話をきちんと聞いてくれるのはうれしい気がする。会社では無視されることが多かったから。
「俺は王様になる。王様になれば、他人の介入など自分の力ではねつけてやる。自分が好きな生き方を実力で進んでいくんだ。俺はその力が欲しい。だから、王様になるんだ」
自分の道を見つけた。俺はとうとう自分の道を発見したんだ。
俺は今まで数限りない失敗をして、絶え間なく後悔していた。今こそ努力して、未来に夢を叶えることができたら、それらの失敗も成功のために必要なことだったと思えるだろう。
「分かったよ、佐藤。ミッキーやモルトン議員にギャフンと言わせてやろうぜ」
ニヤリと笑って野田が親指を立てる。
「俺達も協力する。佐藤さんを王様にしてやるよ」
晴れやかな顔で笑っている重松さん達。榎本さんはイイネサインをしている。
香奈恵は仕方ないわねと言うように笑っていた。それは駄々っ子をあやす母親のような雰囲気だ。
「和田さんはどうします?」
俺が聞くと、ドンと立って敬礼した。
「自分は佐藤司令官の副官でありますから、命令に従うだけであります」
無感動に言った。この人は俺の話を聞いていたのかな……。
いつの間にか雨がやんで日が差している。
何はともあれ、俺の人生はこれからだ。