第183話、方針決定会議
野田の実家。その居間には俺達九人が集合していた。
重松さんと祐子さんは、赤壁の茂みに隠れていたのを俺が転送してきている。
窓から見える曇り空。そろそろ、夏の気配が完全に消え、北風が吹き始めたようで、部屋の中にいても肌寒い。
「おい、佐藤。もう、異世界に行くのはやめようぜ」
野田が口を開く。
「異世界に行ったら必ず戦いに巻き込まれるし、最後には絶対、裏切られて殺されそうになる。お金をいくら積んでも命のスペアは買えねえぜ」
ギロチンで殺されそうになった野田は完全に怖じ気づいているよう。
無理もないか……。ギロチンの刃は近くで見ると物理的な恐怖を与えやがる。
「プラチナもたくさん手に入ったし、働かなくても一生、遊んで暮らせるわよ」
香奈恵も野田に賛同しているようだ。
「そうだよな……」
俺がつぶやくと、榎本さんは悲しそうな顔で俺を見る。もう少しで死にそうだったのに、まだ榎本さんは軍隊の采配を取りたいのだろうか。根っからの軍師は日本での居場所がないと考えているんだな。
ポツポツという音がするので窓を見ると水滴が流れていた。小雨が降ってきたらしい。日本では秋雨の季節になっていたのか。異世界にも秋雨というものがあるのかな。
「でもよう……」
ヒゲ面の重松さんが発言する。
「佐藤さんは異世界で王様にならないと馬に変えられてしまうんだろう。それでいいのかよ」
口元が寂しそうに笑っていた。重松さんも異世界で戦うことが生きがいになっているんだろう。彼にとって日本は窮屈すぎる。
「あのロリ悪魔のコパルも本気じゃないのかもしれないぜ」
野田が背筋を伸ばして反論。
「コパルはダメオヤジが慌てふためいてグダグダするのを見ることが好きなんだろう。日本には他にもダメなオヤジはたくさんいる。そっちに乗り換えてもらえば良いだけの話さ」
「そんなに上手くいくかあ……相手は悪魔だ。何を考えているか分からない」
野田に意見したのは藤堂さん。ボディビルダーのように胸板が厚い。
重松さん達三人は、どうしても異世界で暴れたいらしい。祐子さんは無表情で感情が読めない。アズベルはポテトチップスを食べながらテレビを見ている。和田さんはなぜか部屋の隅で体育座りをしていた。たぶん、彼は何も考えていないのだろう。
「とくかく、コパルに頼んでみなきゃ分からない。俺が呼び出すから、佐藤と二人で土下座して終わりにしてもらおうぜ」
野田は本気のよう。
「なあ、佐藤。そうしようぜ」
うながされて俺は視線を外し、アズベルを見た。
「アズベルはどう思う?」
問いかけると神官の少女は食べることをやめて俺の方を真っ直ぐに見た。