第180話、ギロチン
太ったコメディアンのようなグラン将軍は準備ができたことを確認すると、右手を高く上げた。それを振り下ろせば凶刃が落下して名軍師が死亡する。
公開処刑を見物している群衆が静まりかえって、これから執行される残虐な刑を怖れ、同時に期待していた。
その中をかき分けて俺は早足で壇上を目指した。
「ちょっと待ったあ!」
大声で制止すると壇上の議長をはじめ、グラン将軍達が俺に注目した。
「俺は佐藤だ! 約束通り、榎本さんを解放してもらおう」
ギロチン台に近づこうとすると、警備の兵に捕えられた。
「議長の言ったとおりに俺は転送してきた。二人を解放してくれ」
もがいて俺を抑えている二人の兵を振りほどこうとするが、ガッシリと両腕を固められているので身動きも取れない。
「サトウをこちらに」
議長は勝ち誇った顔でニヤついていた。
両腕をガッシリと握っている兵に連れられて階段を上る。野田は泣きそうな顔をしているし榎本さんは首をねじって、すがるように俺を見ていた。
「さあ、約束は果たしたんだから、榎本さんを台から外せよ」
そう言って議長を睨みつけると、彼は執行官に合図をして榎本さんをギロチンから引き出す。
見物していた群衆から失望のざわめき。
「用があるのは俺だけだろ。二人は帰してもらうぜ」
そう言うと、議長はいやらしい笑いを浮かべた。
「そんな約束は交した覚えがありませんね。エノモト達は無期の禁固刑となります。そして、あなたは死ぬまで私の国に尽くしてもらいます」
やはり、そうだったか。俺を日本との転送装置にするつもりか……。この共和国は腐っているよな。
「いい加減にしろよ。勝手に法律を無視して、お前は独裁者のつもりかよ。このアマンダの政治は腐敗しているぜ! この三流政治屋がぁ」
今まで温厚な表情だった議長の顔がみるみる険しくなってきた。
「三流政治屋だとぉ……。私のことを政治屋と呼んだか!」
議長はギロチン台を指さす。
「エノモトをギロチンにかけろ! 人質は一人いれば十分だ」
命令を受けて、屈強な執行官が榎本さんを連れて行く。
「待ってくれ! 分かった、分かった、俺が悪かった。あんたの言うことは何でも聞くから榎本さんを助けてくれ」
俺は態度を変えて哀願した。
ざまあみろというように議長が笑う。
「もう、野田達とは会うことができないんだろ。頼むから最後に三人で話をさせてくれないか」
泣きそうな声で俺が頼む。
「そうですね……」
議長は迷っているようで、グラン将軍に視線を向けるが彼も判断できずにちょび髭を触っていた。
「大丈夫です。私が転送させないですぅ」
そう言って兵を押しのけて腕に抱きついたのはアズベルだった。
「私の魔法でサトウの転送魔法を無効にするので大丈夫なのですぅ」
黒い神官の服を着た十六歳の少女。押しつけられた胸は豊満だった。
「そうか、では良いだろう……」
グラン将軍が承認して兵に指図すると、俺の前に二人が近寄ってきた。将軍も少しは後ろめたいと感じていたのか。
俺を見る野田と榎本さんは引きつった顔で今にも泣きそう。
心配するなよ、俺が必ず助けてやるから。そのようにアイコンタクトで野田にテレパシーを送ったが、彼には伝わっていないようだった。