第18話、俺達に戦闘は無理
「それで、他に質問はございますかな」
将軍は口の端を上げて、歪な笑いを浮かべている。
こんなガキに何ができるのだ、と思っているのは明白。
榎本さんは、うーんと言って腕組みを解く。
「とりあえずは守備に徹することですね。こちらに比べて敵は大軍です。しかし、大軍ならそれなりの苦労もある」
榎本さんは冷静に言った。こういった話になると身が入るらしい。
「苦労というと……?」
いぶかしげに聞く将軍。
「それは補給の問題です。大軍ともなれば大量の補給物資が必要になる。その運搬経路を狙うのです」
「なるほど……」
将軍は素直に同意した。
「そして、最初は塹壕戦によって敵を疲弊させ、攻撃が激しくなったら塹壕部隊は城に撤退して、塹壕のくぼみに水を流せばいい」
榎本さんはゲーム感覚で言っているよう。
「ザンゴウとは何ですか?」
異世界では塹壕戦の経験がないようだ。
「……城の周りに細長い穴をたくさん掘って、その中から弓などで攻撃するのです」
将軍は深くうなずく。
「つまり、城の外に防御陣を敷いて前哨戦を行うわけですな。ザンゴウの中に水が張ってあれば兵も馬も攻めにくくなる」
「そうです、兵力に差がありすぎるので籠城戦をするしかない。そのうえで遊軍を編成し、城の外で敵の補給線を叩けば帝国も困るはず」
「なるほど……さすがは天才軍師。大したものだ……」
将軍は榎本さんの軍事オタク知識を認めたよう。
「ちょっと良いかな……」
王様が話に割り込んだ。
「さっきから聞いていると、勇者様達は直接的に戦ってくれないようだが、いかがなものか……」
このトランプキングがあ、痛いところを突いてきやがった。王様は俺達がエクスカリバーとかの聖剣で無双してくれると考えているのか。
「それは無理というか……」
口ごもる榎本さん。
「王様! 勝利とは自分達の血を流して獲得するものです」
俺は力強く言った。何とか、この場をごまかさないと。
「他人にオンブ抱っこで得た安寧に何の価値がありましょう」
困ったように王が口を結ぶ。
「いずれ俺達も自分の国に帰ります。そうなれば後は自力で国を守っていくしかない。その方法を俺達は残していきたいのです。それが召喚された者の努めと考えます」
俺達が剣とか振り回して戦うとか、思っただけで怖くて震えてしまうぜ。
「よく分かった。勇者様には戦争の指揮をお願いいたす」
ゆっくりと王がうなずいた。
良かったあ。これでケガとかせずに済むだろう。
「ああ、では、モンモン……じゃなかった、榎本さん、続きをよろしく」
彼は大きく深呼吸した。
「ああ、はい。……そして、それだけでは足りない」
興奮しているのか、榎本さんは目の前のコップの水を飲む。
「足りないとは?」
将軍は榎本さんをじっと見る。
「完璧に帝国を追い払うには、他国との協調が必要です」
小さくうなずいて、カスター将軍は無言で受ける。