第177話、情報入手
転送したのは、ミッキーの邸宅からアマンダ共和国の首都に向かう山道。
真っ暗な森の中。重松さんは軽自動車をけもの道のような荒れた細道に進ませた。
人が来そうもない場所に停車させ、カモフラージュネットをかぶせる。それは、網に木の葉を貼り付けたような物で、敵に発見されにくくするための擬装工作だ。
俺達もギリースーツという全身が緑の服を着た。それは葉っぱだらけの、まるで植物怪人のような格好。秋の夜でも、それは暑苦しい。
これから、ミッキーの邸宅に行くのだが、エンジン音で気づかれるかもしれないので、徒歩で近づくしかない。
早足で森の中を進む重松さんと祐子さん。運動不足の俺は息切れしながら必死について行った。
邸宅に近づくと、重松さんの指示で茂みづたいに進んでいく。
ミッキー老人はずぼらなのか、庭を手入れしていない。大きな石がゴロゴロしているし、所々に藪が茂っていた。月も出ていないので、発見されることはないだろう。
茂みの陰に入って、しばらく待つ。
廊下の窓にランプの光がチラチラと見えた。俺達は、この時間にルーシーさんが建物を回って施錠を確認していることを知っていたのだ。
重松さんが拳銃のドットレーザーサイトを外し、ランプの光が進行する方向の前方に照射する。そして、ルーシーさんが赤い光りの点に気づくようにクルクルと回転させた。
壁に回るレーザーポインターの光りに気がついたのか、ランプの光が止まって窓が開く。小型双眼鏡の形をしたナイトビジョンで見ると、それは懐かしいとも感じるルーシーさんだった。
俺達は窓から建物の中に入った。
「ご無事でしたか、サトウさん」
ルーシーさんは本心から喜んでいるよう。
白い寝間着が暗闇にボンヤリと浮かぶ。グラマーで日本人形のような美人。
「何とか助かりました。ルーシーさんのアップルパイのおかげです。ありがとうございます」
そう言って俺が頭を下げると、彼女はニコリと笑ってうなずいた。
「状況を説明して欲しいんだが」
さっそく重松さんがルーシーさんに訊ねる。
「はい、ことの始まりはミッキー老人の企てからでした……」
彼女は顔を曇らせて話し始めた。
彼女の話を要約すると、俺を捕まえて強制的に日本から物資を輸入させることをミッキーが議長達に提案したという。親友の野田を投獄して、言うことを聞かないと殺すと脅せば俺が命令を聞くだろうという計画だ。
議長としては俺達が怖い反面、有益な転送マシンとして使いたい。それで、この企みを実行したのだという。
アマンダ共和国の経済は深刻な問題を抱えている。今まで鉄骨の輸出先だったキャンベル帝国と絶縁状態なので外貨が入らない。そこで、擬似的に占領状態のカマリア王国を本当に占領して属国にしてしまえば、豊富な銀と豊かな農作物が手に入るのだ。
「サトウさん達のような善人を痛めつけるなんて、許せませんわ」
話の最後にルーシーさんが付け足した。彼女にもそれなりの正義感があったのだ。
「共和国なのに汚えよなあ……」
俺が吐き捨てるように言う。
「まあ、議長としては民衆と共和国のことを思ってやったことだろうがな……」
腕組みをしている重松さんが言った。
独裁者の横暴により他国を侵略するのと、民衆の総意によって侵略するのとでは、どちらがタチが悪いのだろう。
「だけど、ミッキーのジジイは自分の利益のためにやったんだ。決まっている」
俺の言葉にルーシーさんがコクリとうなずいた。
あのジジイは、悪巧みが成功したら輸入に関する権益を独占するつもりだ。