第175話、手のひらを返す
「アズベルさんに聞いたところ、あなたとノダは彼女に淫靡な服を着せて淫らなことをしていたそうじゃないですか……」
「えっ」
もしかしたら、魔法少女のコスプレをさせて写真撮影したことを言っているのだろうか。
「神聖なる神官の少女を陵辱するとは、何という罰当たりな人達だ」
「あ、いや、そんな……」
重松さん達がジトーッとした目で俺を見ている。違う、違うんだよ!
「彼女は泣きながら訴えていましたよ。逆らうとひどい目に遭うので、従うしかなかったと……」
議長の声は同情に満ちていた。
「最初に、アズベルさんがサトウさん達を召喚したそうで、彼女は転送能力を牽制できるそうですね。これからは共和国の役に立ってもらいましょう」
俺は重いため息をついた。
アズベルはポテトチップスをバクバクと食い、寝転がってテレビを見るしか能がないと思っていたが、処世術には長けていたようだ。自分の身が危ないと知った途端に手のひらを返して共和国にすり寄ったのだろう。
「とにかく、こちらには人質がいる。私の命令に従ってもらいます」
「何をすればいいんだよ」
「サトウさんは、すぐに共和国に転送してください」
やはり、目的は俺か。断ったら榎本さんが見せしめで殺されるかも。ここは従うしかないのか。
「佐藤さんは転送したばかりで、あと二十四時間は転送できない」
スマホに割りこんで、拒否したのは重松さんだった。なるほど、これで時間稼ぎができる。
「……うーん、そうですか」
俺の転送を何度も見ているので、議長も転送ルールは知っているはず。
しかし、それは重松さんのはったりだ。本当は日本から異世界に転送したのは、ずっと前なので、今すぐにでも転送できる。
「では、一日待つことにしましょう。明日には転送して議事堂に出頭してください」
「断る!」
重松さんがノーウェイトで拒否した。
ちょっと待ってくださいよ、それで良いの? 重松さん。
「あなたは状況を理解しているのですか。人質がいるのですよ」
議長にとって、断られるのは想定外だったらしい。声が少し動揺している。
「共和国には法律があるだろう。そんなに早く処刑できないはずだぞ」
向こうは沈黙した。が、すぐに返答する。
「法律よりも軍法会議が優先します。エノモト達は軍事法廷の即決裁判によって有罪が確定しました。ギロチンによって処断するつもりです」
適当な法律解釈で死刑かよ。独裁者の私刑と変わりないじゃないか。アマンダ共和国の政治は腐敗しているよな。独裁者の横暴よりも、ずっとタチが悪い。
「そうか、では勝手にしろ」
おいおい、重松さん。
「脅しだと思っているのですか。議会の命令に従わないと本当に処刑しますよ」
声のトーンがマジだ。ヤバイ、榎本さんが殺されるぜ。
「勝手にしろと言っている。だが、その後にどうなるか分かっているのか」
「というと……」
「日本の自衛隊が一万人でアマンダを攻撃するぜ。議長が見たこともない最新兵器で攻めれば、首都は一時間で灰燼に帰す。長い共和国の歴史が終了だ」
議長は黙り込んでいる。重松さんのはったりが効いているのか。
「そ、そんなことができるはずがない……」
「だったら、楽しみにしていろ。アマンダ共和国の滅亡をな」
重松さんが通話を切る。
居間に沈黙と緊張の糸が何本も走っていた。




