第171話、内乱罪
ジョンソン連隊長が後から入ってきた。
「皆さん、抵抗しないでください。サトウ司令官については確保命令を受けていますが、他は殺害しても良いということになっています」
彼の赤い髪がやけに乱れ、視線も落ち着かない。この人は議会から下された命令に疑問を持っているのか、真っ直ぐに俺達の目を見ることができないでいた。
彼は、今まで一緒に戦ってきた仲間を敵にするのは抵抗があるのだろう。
「連隊長。どういうことなんだ、説明してくれ」
腰を落として身構えている重松さんが詰問する。
「議会の命令により内乱罪の容疑で逮捕します。詳しいことは聞かされていません……」
「内乱罪……」
そう、つぶやいて舌打ちをする藤堂さん。彼の回りには戦闘オーラが渦巻いていた。
「なるほど……」
そう言って重松さんがフンと鼻を鳴らす。
「普通、内乱罪は死刑だ。どちらにしろ、議会は邪魔な俺達を始末しようというのだな……。共和制国家が聞いてあきれるぜ」
重松さんの声はドスが利いている。彼も戦闘モードに入っているらしい。
共和国の軍隊は文民統制が原則。それは軍部の暴走を防ぐシステムだが、コントロールするはずの議会が腐っていれば意味が無い。
「とにかく、投降してください。さもないと強制的に鎮圧します」
連隊長は命令を疑っていても、その命令には忠実に従うようだ。この人は苦労人なんだよな。
「できるもんなら、やってみろ」
そう言ったかと思うと、重松さんは正面の兵の剣をたたき落として腹に蹴りを叩き込んだ。
頭を壁に打ち付けて気絶する兵士。これで、あと四人。連隊長を入れれば五人か。
前から示し合わせていたのかと思うほど藤堂さんの連携した行動も早い。思い切り沈んで兵の足を打つ。相手は悲鳴を上げてよろめいた。
「攻撃しろ! サトウさん以外は殺しても構わん」
残りの三人が取り囲むように部屋に展開する。ジョンソン連隊長も剣を抜いた。
たちまち部屋の中は剣劇の金属音に満たされた。数では不利だが、重松さんは水を得た魚のように機敏に立ち回る。素早い動作で、二人を相手にしても余裕を感じさせた。
藤堂さんも負けてはいない。情報担当だというが格闘戦での攻撃力は前の戦いで証明されている。二倍以上の数を相手にしても互角だった。
苛烈な白兵戦を見ている俺は、和田さんにお姫様抱っこされている。
「和田さん。下ろしてください」
はあ……と言って俺の足を床に付けた。
「あなたも戦いに参加してもらえませんか」
俺は殺されないようだから、和田さんを援軍として参加させよう。
「司令官の命令ならば」
この場に及んでも愚直な態度。
「ああ、ハイハイ。俺の命令です。できますか?」
戦闘は強いと聞いているのだが。
「それは可能です」
「では、お願いします」
焦りで声がかすれていた。
「武器の使用を許可していただけますか」
俺はため息をつく。重松さん達が命がけでチャンチャンバラバラやっているのが目に入らないのか。
「いいですよ! 何でも使ってください。敵を撃破せよ、和田副官!」
「はっ」
彼は腰の警棒を取ってシャキーンと伸ばした。
やはり、格闘人間にとって警棒はハンカチのように常に携帯しておくのがマナーなのか。