第17話、作戦会議
「勇者殿、待ちわびていましたぞ」
王冠をかぶった王様が重々しく言った。
いつも金色に輝く王冠を頭に乗せて、この人は首が疲れないのだろうか。
「申し訳ございませんね。ちょっと向こうの世界に帰って準備して参りましたの」
笑顔を振りまいて香奈恵がイスに座った。
執事が俺に座れと言うようにイスを引いたので、「どうも」と言って豪華な装飾のイスに座った。
「勇者様は自由に帰還することができるのですね」
キャサリン姫の生声を初めて聞いた。思っていたとおり優しい声。アニメでの、お姉さんキャラのようだ。
「もう敵が迫っている。時間が無いので、さっそく作戦会議を始めたい」
平然としているが、王様も焦っているのか。
「斥候によると、敵の兵数は5万。あと1週間の距離まで迫っているのだ」
白髪頭の男が気難しそうに言った。
「五万人ですか……」
俺には、あまりピンとこない。隣に座っている榎本さんは腕組みをしてうなり声をあげた。しかし、この白髪頭の人は誰だろう。細身だが体はしなやかで引き締まっている。
「私はカスター将軍です。この城塞都市の守備を任されている」
将軍が軽く頭を下げた。50歳くらいだろうか、年の割には力強いオーラを放っているよう。
彼の態度から見て俺達のことは信用していない感じがする。
「それで、そちらの方は……」
将軍の横に座っていたウォルターが聞いていた。
そうか、榎本さんとは初めて会うんだよな。
「この人は榎本さん。あたし達の国では天才軍師として通っています。この戦争では役に立つはずですよ」
香奈恵の説明に、ほうっと、ため息が会議室に流れる。
当の榎本さんは苦笑いして顔を引きつらせていた。ハードルを上げすぎたんじゃないか。
「まだ子供のようですが、大丈夫でしょうか」
彼は三十代から中学生に変わっている。姫が不安を覚えるのは仕方ない。
「見た目は若いですが、向こうの世界では百戦錬磨の強者です。どのような敵でも撃退してくれるでしょう」
香奈恵も適当なことを言っているな。榎本さんは顔をしかめて彼女を睨んでいる。そんな顔をしなくても、ヤバくなれば日本にトンズラすれば良いのだからさあ。
「それで軍師殿には、どのような考えがおありですか」
将軍が冷たい口調で聞いた。俺達のような部外者には頼りたくないのか。
「それより、まず詳しい状況を教えてもらえませんか。まだ世界観というか、その……良く知らないもので」
榎本さんの話を聞いて将軍が小さく笑った。
「仕方がありませんな。王の命令ですので、あなた方を頼るしかない……」
やはり将軍は、俺達を疎んじているらしい。
将軍の話によると、敵の兵は5万で、こちらの守備兵は一万人。キャンベル帝国の兵は良く訓練されていて強力だ。
地理としては、大陸の中央に帝国があり、その周りを取り囲むようにトルディア王国などの小国が存在する。トルディア王国は大陸の東側で、海に面している。船を使った貿易が国の大きな収入源になっていた。
帝国はトルディア王国が貯め込んだ財産と、巧みな操船技術を奪うために進軍しているのだ。
榎本さんは目をつむってフンフンと聞いていた。