第168話、融通の利かない人
翌日、和田さんが運転するジムニーに乗り、プラチナを掘り出している山に向かう。
彼は車の運転だけでなく、工事車両やヘリなども操縦出来るそうだ。マシンのように融通の利かない人だから、機械と相性が良いのだろうか。
確かに和田さんの運転技術は一流のようだ。けっこうスピードを出しているが、森の中の荒れた道を難なく走破している。
「どのくらいのプラチナを掘り出したかなあ」
俺は後部座席の野田に問いかけた。
「ああ、まあ……二,三トンといったところだろうな」
彼はファイルをチェックしながら返事をする。
その量だと、闇ルートでも百億円は下らない。今回の戦争に投資した分を回収して、余りすぎるくらいに儲かったな。無人島を三つほど買ってやろうか。
百五十フィートの豪華ヨットも買うことができるが、あまり派手に動くと税務署から目を付けられるかもしれない。
「佐藤司令官、どちらに行きますか」
和田さん訊ねられて前方を向くと、緩やかな左カーブの手前に右折する小道がある。
「そのまま、真っ直ぐで良いですよ」
「はっ、了解しました」
彼は真面目そうに答えた。
車は直進し、右折路を通り過ぎて真っ直ぐに進んでいく。
緩いカーブ、その道をハンドルを切らずに真っ直ぐに……あれ?
軽自動車は道を外れて藪の中に突っ込んだ。木の枝が次々とフロントガラスに当たる。
後の野田が悲鳴を上げた。
「何をやっているんですか!」
俺が怒鳴ると和田さんはブレーキを踏んで俺の方を向いた。
「あ、いや、司令官が真っ直ぐと言ったものですから、自分は……」
あきれて声が出ない。
愚直だ。融通が利かないにも限度があるだろう。普通、こういった場合は道なりにハンドルを切って曲がると思うのだが。
「道なりですよ! 道なりに真っ直ぐという意味だったんです」
「も、申し訳ありません」
和田さんはギアをバックに入れて茂みから抜け出す。
この人の頭脳は扇風機と同じレベルなのか。コンセントを差し込んでからスイッチを入れないと正しく動かないらしい。
彼が自衛隊に勤めていたときの上官の苦労が分かる。和田さんが自衛隊を辞めた理由も察しがついた。
それから俺は、昔の8ビットマイコンに機械語で命令するように、細かく正確に冗長的に行き先を指示した。和田さんに死ねと命令すれば素直に死ぬのだろうか。戦場では使いやすいのかもしれないが、日常生活ではギャグ要員としか言いようがない。
しばらく走って、やっと現場に到着した。
あー、疲れた。コンピュータのプログラマもこんな感じなのかな。
往路の疲労感も、高く積まれたプラチナの板を見たら吹っ飛んでしまう。
そこには数人のカマリア軍の兵隊がいてミニユンボを使ってクズ銀と呼ばれているプラチナを掘り出していた。ユンボの操縦は重松さんが教えたのだ。
まず、ジムニーに積めるだけ積んで、あとは重量ポイントを使い果たして転送で一気に運ぶか……。
横を見ると野田が目を細めて嫌らしい笑みを浮かべていた。たぶん、俺も同じ顔をしているのだろう。




